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多国籍企業化するファミリービジネス

海外研究員レポート

メキシコ

2011年12月発行
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メキシコの地場大資本はほとんどがビジネスグループの組織形態をとる。その特徴は、創業者家族が所有経営支配するファミリービジネスである点にある。2010年度の売上高でみた上位20ビジネスグループ1 のうち、酪農家の協同組合を出資母体とする乳製品製造のララ・グループ(Grupo Lala)を除く残る19グループが、いずれもファミリービジネスである。

メキシコのファミリービジネスが海外直接投資を開始したのは1990年代であるが、その動きは2008年リーマンショック後も続いている。メキシコ生まれの多国籍企業は徐々に数を増し、その活動範囲も従来のアメリカ大陸中心から、ヨーロッパやアジアに拡大している。メキシコのファミリービジネスは何を頼りに厳しい国際競争に臨んでいるのか。前途にはどのような問題が待ちうけているのか。以下においては上場企業の2010年度の有価証券報告書に依拠しながら、ファミリービジネスの多国籍企業化の現状を紹介したい。

ファミリービジネスの海外企業買収
表1は2010年度の売上高でみた上位20ビジネスグループのうち、海外直接投資を行っているファミリービジネスを売上高順に並べ、海外売上高比率、投資業種、進出国の数とその地域分布を示したものである。この表から次の点が明らかになる。第1にほとんどのファミリービジネスが海外直接投資と輸出によって売上げの過半を国外で稼いでいる点、第2に海外投資先としては近隣の北米、中南米・カリブ地域が中心であるが、一部のファミリービジネスは欧州、アジアまで事業を拡大している点である。アメリカ大陸の外に大がかりに事業展開しているのは、セメントのセメックス、アルファ傘下の自動車部品のネマック(Nemak)、食品(トルティーヤ粉)のグルーマ、化学のメヒチャンである。

進出の手段は主に既存企業の買収である。表2にメキシコのファミリービジネスによる2007年以降の国外での大型企業買収を示した。この表からセメックス以外のファミリービジネスはリーマンショック以降も企業買収を行っていることが明らかになる。買収額は案件ごとに大きく異なる。ちなみに最高額はセメックスによるオーストラリアのリンカー(Rinker)買収で、142億ドルにも達する。この買収によってセメックスの屋台骨は大きくゆらぐことになるが、これについては後述する。

ファミリービジネスが海外直接投資を進める理由として二つの点を指摘できる。

第1に経済グローバル化が進み企業間の国際競争が激化する中で、生き残りのための事業戦略として多国籍企業化を選択したという点である。その代表がアルファ傘下のネマックである。ネマックが属する自動車部品業界は、世界的に生産の集中が進み企業間競争が熾烈な業界である。ネマックは、エンジン部品のアルミ製シリンダーヘッドとモノブロックの製造に特化し、この事業で世界的なプレーヤーとなることをめざしている。2007年の2件の先進国企業の買収で、これまで米国ビッグスリーに偏っていた顧客ベースをヨーロッパ・アジアの自動車メーカーに広げ、合わせて技術開発センターを取得することで技術開発能力を向上させている。

第2にファミリービジネスの傘下企業は、カルソの電話、セメックスのセメント、ビンボーの製パン、グルーマのトルティーヤ粉のように、それぞれの事業分野において既にメキシコ国内で高い市場シェアを獲得しており、独占禁止法の規制により国内での企業買収による事業拡大が難しいことがある。企業買収による成長を指向するならば、おのずと国外に向かわざるを得ない。

ファミリービジネスの国際競争力の源泉
多国籍企業化するファミリービジネスの競争力の源泉はどこにあるのだろうか。それについては次のような点が考えられる。

第1にメキシコ市場における高収益の支えがある。海外進出企業の国内事業と海外事業の収益率を比較すると、国内事業の収益率が海外事業のそれを大きく上回る場合が多い。国内事業の高収益を可能にしているのが上述の国内市場における独占的地位である。ビンボーを例に上げれば、2010年に営業利益の対売上高比率は国内で14%、国外で5%だった。2010年に原料小麦の歴史的価格高騰に見舞われた同社は、メキシコ国内では原料価格高騰を製品価格に転嫁できたが、競争の激しい米国ではそれができていない(Expansión, junio 20, 2011,p.104)。構図としては独占的市場支配がもたらすメキシコでの高収益が低収益の海外事業を支えていることになる。

第2にラテンアメリカの優位と呼ばれるメキシコ企業がラテンアメリカ市場においてもつ優位がある。ラテンアメリカ諸国は共通の言語や文化・社会的背景を持つうえ、メキシコはラテンアメリカでは域内先進国である。メキシコ企業は成長過程に蓄積したラテンアメリカの市場特性に根ざした技術・経営能力を域内後進国で活用し、優位に競争できる。ファミリービジネスが進出先としてまずラテンアメリカ諸国に向かう理由として、このラテンアメリカの優位を指摘できる。

第3に先進国多国籍企業との戦略的同盟による優位がある。フェムサは清涼飲料水部門(FEMSA Coca Cola)でコカコーラと、グルーマは穀物商社ADM(Archer Daniels Midland)と、マベはGE(General Electric)と、いずれも資本提携に基づく戦略的同盟関係にある。それぞれがもつ経営資源、例えばファミリービジネスの事業実績、メキシコでの高い市場シェア、信用力と、多国籍企業の技術力、ブランド力、国際的事業ネットワークを結合させることで、同業種のペプシやカーギル、メキシコと進出先の地場企業との競争を有利に進めることができる。

第4に海外直接投資自体が競争優位の構築の機会となっている点を指摘できる。その端的な事例がメヒチャンである。メヒチャンの事業は塩化ビニール関連とフッ化水素酸関連の二つの柱から成る。二つの事業の特徴は第1に原料(塩と蛍石)の採掘から加工品製造(塩ビ製品とフロンガス)に至る多数の企業を擁し、事業の垂直統合が進んでいること、第2に垂直統合が企業買収のたまものであることである。メヒチャンは2007-2010年に表2に示すように国外で大型企業買収を立て続けに実施し、化学部門の世界的プレーヤーの仲間入りを果たした。化学産業は景気変動の影響を受けやすいため、垂直統合により事業の安定と顧客・サプライヤーとの長期的取引関係の構築を図ることで、競争力を高めることができる。前述のネマックも企業買収が競争優位の構築の機会となっている事例といえよう。

メキシコのファミリービジネスは以上のような競争力の源泉を組み合わせながら、厳しい国際競争に臨んでいるといえる。

リスクと隣あわせの海外進出
海外進出には大きなリスクがつきまとう。現在メキシコのファミリービジネスが直面している最大のリスクが債務破綻である。企業買収の資金源は主に銀行融資と債権発行である。早期に海外直接投資を開始したファミリービジネスほど、企業規模の拡大に応じて企業買収が大型化しているため、債務額も膨張している。

セメックスの場合、リンカー・グループ買収直後にリーマンショックに遭遇し、金融コスト削減をねらったデリバティブ取引の損失と、米国の経済危機による売上げ急減のダブルパンチを受けて、債務返済に陥った。債権者との債務返済繰り延べの合意が成立しているが、国際金融不安が続く中で、合意どおりに返済が実施できるのか危ぶまれている2 。ビンボーは、無借金経営で定評のあるファミリービジネスだったが、それも2年前までのことで、2009年の米国での大型企業買収以降、債務額が急増している。ただし、それでやっと他社並みの債務水準になったというのが、ファミリー総帥の見解である(Expansión, jun.20, p.104)。

債務が経営を脅かす問題にまで発展するかは、債務の規模、活動業種の特性、ファミリービジネスの事業構成など、さまざまな条件にかかっている。例えばアルファ傘下のネマックは企業買収で重債務を負い、リーマンショック後の自動車市場の縮小で売上げを急減させたが、債務返済繰り延べとアルファからの資金援助で難局を乗り切った。アルファの業績は2008年に赤字に転落したが、食品部門のアルペック(Alpek)への経済危機の影響が軽微であったことから、2009年には黒字に回復した。事業多角化の強みが発揮されたといえる。

競争力の源泉の一つとしてあげた戦略的同盟は、場合によってはリスクに転化しうる諸刃の剣である。第1に同盟解消のリスクが存在する。例えばフェムサのコカコーラ事業は原液とブランドをコカコーラ社が握るため、同盟が解消されれば事業は立ち行かなくなる。それを避けるために、FEMSAはコカコーラ社に対し最良の同盟相手であることを常に示していかなければならない。第2に資本提携による戦略的同盟には、買収されるリスクがつきまとう。その事例として、多国籍企業化はしていないが、ビール製造のモデロ(Modelo)グループの事例をあげることができる。モデロの支配株主は1993年にバドワイザーで有名なアンハイザーブッシュから議決権株43.9%に相当する出資を受け入れた。この時に創業者ファミリーを中心とする支配株主は経営支配権を維持するために、持株の議決権株56.1%を信託に預託し議決権を一本化した。2008年にアンハイザーブッシュがベルギーのインベブ(InBev)に買収され、モデロの議決権株43.9%が間接的にインベブに移転した。モデロは株式所有権移転の際は相手方の承認を得るという1993年に結んだ協定に違反すると裁判所に訴えたが、訴えは認められず、所有構造は変わらないまま現在に至っている(Reforma, Abr.1, 2011)。

ファミリー支配と多国籍企業化の関係
先にあげた4つの競争力の源泉はファミリービジネスに固有のものではない。上位20のビジネスグループのなかで唯一ファミリービジネスではないララ・グループにも、第1、第2の競争優位は当てはまる。債務リスクや戦略的同盟のリスクも、ファミリービジネスに限らず、非ファミリービジネスにもついてまわるリスクである。それではファミリービジネスであること、端的にいえばその基本的特徴であるファミリーの所有経営支配は、多国籍企業化にどのような形で影響を及ぼしているのであろうか。

第1に指摘できるのは、ファミリーの意向が多国籍企業化に直接反映されているという点である。表1にあげたファミリービジネスはマベを除きすべて上場企業である。企業成長に伴うファミリーの持株比率の低下、ファミリー持株の売却を防ぐために、議決権制限株式の発行や、信託や持株会社による持株の集中管理が行われ、ファミリーによる議決権支配が維持されている。ファミリービジネスは持ち株会社の下に多数の事業会社を配置するピラミッド型組織をもつのが一般的だが、本社機能を持つ持株会社のトップをファミリーが占めることで経営支配が実現している。海外直接投資のように企業戦略の基本に関わる決定は、ファミリーの意向、特に経営トップに就くファミリー総帥の意向を反映しているとみていい。
例えばセメックスは1989年という異例に早い時期に海外直接投資を開始したが、その背景には1985年の2代目から3代目へのファミリー総帥の世代交代がある。セメックスの企業買収による多国籍企業化は現社長ロレンソ・サンブラーノのイニシアティブによるところが大きい(星野2002:53-55)。同じことがメヒチェンにもいえる。メヒチェンの総帥アントニオ・デル・バリェは、もとは銀行家であった。1982年に所有銀行を国有化で接収され、その賠償金で塩素・苛性ソーダ製造会社を取得した。銀行再民営化政策で再度銀行業に参入するが、1994年通貨危機の時に持株をSHBCに売却し、その資金で蛍石鉱山会社を取得した。この二つの会社を出発点に、まずメキシコで企業買収による垂直統合化を開始し、近年その矛先を世界に拡大した。メヒチェンの多国籍企業化もアントニオ・デル・バリェのイニシアティブによるところが大きい(Expansión, Feb. 28, 2008)。

経営方針がファミリーの意向を反映しているとするならば、当然、ファミリーが海外直接投資を行わない選択をする場合もありえる。しかし貿易と投資の自由化により国際競争と買収の脅威にさらされるという点では、メキシコ国内も国外と変わりがなくなった。一方1990年以降、国際金融市場の急成長により、新興国企業の資金調達の機会が大きく広がった。このような海外直接投資のプッシュ要因とプル要因の存在は、成長志向をもつファミリービジネスを多国籍企業化への道に誘ったといえる。

ただしファミリービジネスにはファミリービジネスに固有の次のような脆さがある。第1に世代交代を重ねると株式所有が分散し経営支配の要である議決権支配が困難になること、第2にファミリー出身者が常に優秀な経営者であるとは限らないことである。ファミリービジネスは第1の問題に対しては、先に述べたような複雑な株式所有構造を構築することで対応している。またファミリーの就任をピラミッド型組織のトップ経営職にとどめ、残りのポストには専門経営者を積極的に登用し事業執行を委任することで、ファミリーの人材制約と多国籍企業化が要求する経営人材の高度化に対応している。しかしこのように組織構造を工夫したとしても、世代交代に失敗する可能性、ファミリーの結束が崩れる可能性は常に存在する。ちなみに先に述べたモデロが抱えるインベブによる買収リスクが現実化するとすれば、それは支配株主の結束が崩れ信託が解消された時であろう。

このような脆さを抱えながらも、海外直接投資のプッシュ要因とプル要因が存在する限りは、成長志向をもつファミリービジネスの多国籍企業化の流れは今後も止まらないと考えられる。

表1.メキシコの大手ファミリービジネスの海外直接投資(2010年)

表1.メキシコの大手ファミリービジネスの海外直接投資(2010年)
1) 鉱業部門のみの比率。同グループは他に鉄道輸送部門(売上高の16%を占める)をもつ。
出所:各企業の2010年有価証券報告書(Reporte anual 2010)。非上場のMabeについてはホームページ情報(www.mabe.com.mx 2011年11月23日閲覧)。

表2 メキシコの大手ファミリービジネスによる2007年以降の国外での大形企業買収

表2 メキシコの大手ファミリービジネスによる2007年以降の国外での大形企業買収
出所:表1と同じ。

参 考
  1. 上位20グループについては星野『海外研究員レポート』2011年8月参照。
  2. 詳細は 同上レポート参照。