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インドネシア・ランプン州での環境保護活動 現地NGOによる海岸ゴミの清掃とマングローブの再植林

海外研究員レポート

インドネシア

2011年12月発行
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現地NGO 事務所前にて
現地NGO 事務所前にて
はじめに
ランプン州はインドネシアのスマトラ島南端に位置する州で、コーヒーやカカオ、丁子の産地として知られているが、それよりも日本で食卓に並ぶインドネシア産エビ(バナメイエビなど)の産地のひとつと紹介したほうが、さらに身近に感じられるかもしれない1

この11月に約5年ぶりに訪れたランプン州では、20年近く活動している現地NGO(非政府組織)のプロジェクト・サイトに寄る機会があった。そこで今回の報告では現地で撮影した写真と一緒にインドネシアの一地方の現地NGOの活動を紹介することにしたい。




事務所脇の看板「ゴミ投棄禁止:条例2000 年8 号により罰金
500 万ルピアもしくは禁錮6カ月」
事務所脇の看板
「ゴミ投棄禁止:条例2000年8号により罰金
500万ルピアもしくは禁錮6カ月」
ランプン州へ
ジャカルタから飛行機に乗ること40分、ジャワ=スマトラ間に横たわるスンダ海峡を越えるとランプン州のタンジュン・カラン空港に到着する。現在このスンダ海峡を橋で結ぶ計画が再浮上しているため、ひょっとすると10~20年後くらいには完全に陸路でジャワ島からスマトラ島まで移動できるようになっているかもしれない。橋が実現すると全長約30km、世界最長の吊り橋になるとも言われている2

空港から州都へ移動する車中では、5年前にはなかったケンタッキー・フライド・チキンの出現や、自動車・オートバイの交通量に驚かされた。後日のことになるが、市内を移動する際に何度か渋滞に巻き込まれて驚きを新たにすることになる。

今回5年ぶりに訪問した現地NGOの事務所は中心部から車で20分ほどのところにある。このNGOはランプン大学の卒業生らが1990年代半ばに創設し、もっぱら環境保護活動に力を入れている団体である。常勤スタッフは全員男性で現在5名、代表は40代前半。これまでに日本のNGOや国連開発計画(UNDP)などの支援を受けてランプン湾岸を中心に活動を続けており、現地英字紙Jakarta Post にも何度となくその活動がとりあげられている。ランプン州の環境保護団体としては地元では知られつつある団体といってよいだろう。


表 ゴミ処理方法(2007年)
表 ゴミ処理方法(2007年)
出所)Susenas 2007
注)複数回答可
海岸ゴミの清掃とマングローブの再植林
滞在中に現地NGOの現在の主な活動地のうち2か所みせてもらう機会があり、最初に海岸ゴミの清掃活動地を訪れた。このプロジェクトはバンダル・ランプン市(「市(kota)」は州の下に位置づけられる地方自治体)から請け負ったもので、複数の現地NGOと協力して実施しているのだという。

今年10月から12月にかけて試験的に数か所でゴミを回収してコストなどを見積もり、来年には付近一帯の海岸すべての清掃活動をする計画らしい。ただし来年については地方政府の予算がつくかどうかは未定だと話していた。この一日だけで小型トラック一杯分のゴミを回収したが、まだ沿岸部には写真のように大量のゴミが残っている状態である。こうした海洋ゴミには、この付近の居住地からだけでなく川上など他の地域からも流れてくるゴミも含まれている。

海岸ゴミ
海岸ゴミ
ここでインドネシアの一般世帯でのゴミ処理方法について、手元にある2007年社会経済調査(Susenas)で確認してみることにしよう。ゴミ処理方法をまとめた表からは、2007年当時で回答者の少なくとも4分の1近くの世帯がゴミ(の一部)を焼却といった処理を経ずに川へ投棄したり、ポイ捨てしている様子がうかがえる3。このようにゴミの投棄が頻繁にみられるようでは、海岸にゴミが集積するのも不思議ではない。海岸の清掃だけでは対処療法にしかすぎないため、抜本的な問題解決のためにはより広い地域を対象にゴミの投棄を減らしていかなければならない。すぐに思いつくのは罰則を設けることだが、実は現地NGO事務所脇の看板(写真)にみられるように10年前にすでにゴミの不法投棄を取り締まる条例が制定されている。この罰則によりゴミの投棄が減っているかどうかは不明だが、実際に減らすには少なからぬ監視コストが発生するため、罰則だけではゴミの不法投棄を減らすことは難しいと思われる。

ゴミを収集している様子
ゴミを収集している様子
ではどのような方法が他にあるだろうか。例えば公共サービスの拡充によりゴミ回収を徹底するといった手段も考えられるが、近年インドネシアではゴミを減らすことを目的とした面白い取り組みが広がりつつあるのでここで紹介しておきたい。それは、2008 年からジョグジャカルタ特別州のある村から始まったとされるゴミ銀行(Bank sampah) である4 。仕組みは次の通り。まず顧客は各家庭で発生した資源ゴミをゴミ銀行まで持って行き、帳簿に重量などを記載してもらう。銀行は倉庫が集まったゴミで一杯になったときに回収業者に売却して収益を重量に応じて顧客に配分する、というものである5。このゴミ銀行は現在インドネシア各地に広がりつつある。今年9月にムハマド・ハッタ環境担当国大臣は「ゴミの量を減らすために2014年までには250市にこうしたゴミ銀行を配置する計画だ」と発言している(現在は175 行存在するとのこと)6

村の風景
村の風景
ゴミ銀行はバンダル・ランプン市にも設立される予定である7。清掃活動、罰則の制定、ゴミ銀行といったこれらさまざまな政策の実施により、海岸ゴミ問題が今後この地でどのように軽減されていくだろうか。他のゴミ問題とあわせて折に触れ今後の変化もまた確認してみることにしたい。

次に現地NGOに見せてもらったのは、10月から来年3月にかけて人口約7000人の大きな村の一地区で進めているマングローブの再植林活動地であった。プロジェクトサイトは潮の香りが強く漂う海沿いの地区で、満潮時の床上浸水に備えてこのあたり一帯の家は高床式となっている。この再植林活動は現地企業がCSR(企業の社会的責任)の一環として現地NGOと協力して実施しているプロジェクトで、かつてエビの養殖に使われていた池を再びマングローブ林に戻すことになったとのこと。

ランプン州政府によれば、州内にあるマングローブ林のうち70%にあたる73.6万haのマングローブ林が危機的状況にあるらしい8。こうしたマングローブ林の破壊は住民らによる伐採の結果とされるが、それは木炭としての利用(現地での使用のほか輸出も)だったり、エビの養殖池を作るためだったりとさまざまなようである。マングローブは成木に成長するまで5年ほどかかるといわれる。また5年後もしくは10年後にこのサイトを訪れたとき、何事もなく無事にマングローブが生い茂っている姿をみられるだろうか。再び訪れる日の来るのが楽しみなような若干不安なような複雑な気持ちで村を後にした。


マングローブの再植林地
マングローブの再植林地
おわりに
このランプン州で活動している現地NGOは、5年前の訪問時には主に先進国や国際機関からの支援を受けてプロジェクトを実施している団体との印象が強かったが、今回の訪問時には活動の中心が地方政府や現地企業との協力プロジェクトとなっていた点が関心を引いた。以下は単なる憶測でしかないが、現地NGOがこうした現地企業のCSRプロジェクトに参加することになったきっかけの一つには、株式会社に関する2007年40号法(1995年1号法の改正)の成立があるのかもしれない。同法は環境保護を念頭に天然資源関連企業へCSRを義務づけた点で注目を集めたが、実際のプロジェクト実施にあたっては企業が現地NGOなどと協力していることをうかがわせる記事が散見される9

2008年に世界的金融危機が発生して以降、先進国や国際機関から得られる支援にも不透明さが増すなか、現地NGOにとってはCSRプロジェクトが新たに活動資金源として一定割合を占めつつあるのかもしれない。だとすればこれはインドネシアの現地NGOの活動を見るうえでは興味深い変化であろう。このCSR義務化がもたらした影響についてはまた別の機会にあらためて確認することにしたい。

追記
ホテルにチェックイン後、迎えに来てくれた友人が「ほら」と見せてくれたのがリュックにつけたスリ・ムルヤニ前大蔵相(現世界銀行専務理事)の「I’ll be back!」10 バッジ。

スリ前蔵相は特に知識人層に高く評価されていることに加えてランプン州出身なので後から考えてみればありえなくはないのだが、まさかこれほど熱烈な支持者にランプン州で出会うとは思ってもいなかった(とはいえ、まだ次の選挙までは時間があるためか、滞在中に彼以外の口からスリに対する高い期待の声を特に耳にすることはなかった)。

かつてユドヨノを大統領に押し上げるために作られた民主主義者党(Partai Demokrat)同様、スリを2014年の大統領候補にすべく組織されたPartai SRI(Serikat Rakyat Independen [独立国民連盟党])はまだ法務・人権省の審査を通過していない(審査の最終締め切りは11月25日。執筆時点ではその審査結果を報告者は目にしていない)。2014年に友人が投票先を迷わないですむよう無事審査を通過することを願っている。

参 考
  1. ランプン州には東南アジアで一番大きいと宣伝されていたエビの養殖場がある。PT Aruna Wijaya Sakti(PT AWS:アグリビジネスで有名なタイのCP グループに属するCP Prima の子会社)によって2007年から運営されていたこの養殖場は、2011 年になって養殖者側とPT AWS 側との間で問題が発生し中央政府が後を引き継ぐ騒動へと発展している(”Govt takes over shrimp pond project in Lampung to end lengthy dispute.” The Jakarta Post, 5 August, 2011.
  2. ただしこの11月末に東カリマンタン州で吊り橋が崩落するという大事故が発生した。原因次第ではスンダ海峡大橋建設計画にも少なからぬ影響があるかもしれない。
  3. これは自己申告であることに注意が必要だろう。例えば、現地NGO事務所脇の看板に書かれているように罰則があることを知っている世帯では、不法投棄について過小に回答している可能性がある。
  4. ”Banking environment.” The Jakarta post, 31 March, 2011.。なお、この記事は翻訳されて『日経ビジネス』でも紹介されている。
  5. 顧客にとってゴミ銀行が存在することのメリットとしては、たとえ金額はわずかであってもゴミから収入が得られること、そして少量では価格がつきにくいゴミ(古紙など)を一か所に大量に集めることで売却が可能になったという点であろう。一方で業者にとっても、ゴミを探す費用を引き下げることができる(実際には顧客へ転嫁している)というメリットがある。
  6. ”250 kota akan memiliki bank sampah pada2014.” Bisnis Indonesia, 21 September, 2011.
  7. ”Bogor bangun bank sampah.”Suara Merdeka, 19 Oktober, 2011.
  8. ”Lampung mangroves could be extinct 5 years: Activist” The Jakarta Post, 23 April, 2010.
  9. たとえば”Environmet Watch: Gili Trawangan protects coral reefs.” The Jakarta Post, 8 July,2011。なお、改正株式会社法については日本語では日本貿易振興機構(JETRO)「インドネシア 外国企業の会社設立手続き」に説明がある。
  10. 映画「ターミネーター」からの有名なセリフであるが、渡米前のTempo 誌の取材でスリはこのセリフでインタビューを締めくくった。スリ前蔵相が世銀へと転出するにいたった経緯については例えばアジア経済研究所『アジア動向年報2011』(354-371 ページ)を参照のこと。