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中国・6中全会『文化体制改革』の意義

海外研究員レポート

中国

佐々木 智弘
2011年11月発行
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2011年10月15~18日、中国共産党(共産党)第17期中央委員会第6回全体会議(6中全会)が開かれた。中央委員会全体会議は、5年に1回開かれる共産党全国代表大会(党大会)の間、毎年秋に開かれる共産党にとっての重要会議である。中央委員(202名)、中央委員候補(163名)が出席するこの会議には毎回1つの大きなテーマが設定され、関連する「決定」という文書が採択されるのが常である。しかし、会議では、そのテーマや「決定」草案について議論されるというよりも、むしろ中央委員会より上級の中央政治局会議ですでに決定された事柄について、伝達されるという意味合いの方が強い。

この6中全会では、文化体制改革がテーマとなり、「文化体制改革を深化させ、社会主義文化の大発展大繁栄を推進させることについての若干の重大問題に関する決定」が採択された。しかし、「文化」といって、すぐにculture をイメージするのは、理解が片面的である。発表されたコミュニケから、6中全会には大きく3つの意義があったというのが、私の見方である。

(1)「文化強国の構築」
(コミュニケからの引用)

「現在の中国は全面的小康社会を建設するカギとなる時期に入り、改革・開放を深化させ、経済方式の転換を加速させる攻めの時期に入り、文化がますます民族の凝集力と創造力の重要な源泉となり、総合国力競争の重要な要素となり、経済社会発展の支えとなっている」

国際政治の世界で、「ソフトパワー」の重要性が指摘されて久しい。「文化強国」が国際社会におけるソフトパワーの強化を意味し、経済力、軍事力だけでなく、文化でも世界を席巻するために、国内の文化事業、文化産業の体制を改革しようということだ。

(2)「社会主義の核心的価値」
しかし、通常「6中全会」は、党大会の前年に開かれ、2001年の15期6中全会は「思想道徳と文化」、2006年の16期6中全会は「精神文明」がテーマになっており、それらはすべて政治的な意味を持った内容だった。そのため、今回の「文化体制改革」にも政治的な意味が含まれていると見るべきである。

なぜ6中全会が政治的な意味を持つのか。党大会の前年というのは、党大会に向けて特に政治改革や市場経済化の推進を主張する「右」(改革派)と毛沢東時代への回帰を主張する「左」(保守派)を両極端とするイデオロギー論争がエスカレートする時期である。それは、党大会での中央指導層の人事をめぐる権力闘争と直結している。現政権は、権力闘争がエスカレートすることで、安定した政治環境で党大会を迎えることができなくなることを最も恐れている。そのため、6中全会は、前述のようなテーマを掲げ、党内の思想を「中庸」で統一することが最大の目的なのである。

(コミュニケからの引用)
「社会主義核心価値は、国を興す魂であり、社会主義先進文化の精髄であり、中国の特色を持つ社会主義の発展方向を決定する。社会主義核心価値を国民教育、精神文明建設、党の建設の全過程に溶け込ませ、改革・開放と社会主義近代化建設の各領域を貫き、精神文化作品の創作、生産、伝搬の各方面で体現させ、社会主義核心価値を用いて社会思潮を誘導し、全党全社会の統一思想、共同理想の理念、強大な精神力、基本道徳規範を形成しなければならない。マルクス主義の指導的地位を堅持し、中国の特色を持つ社会主義共同理想をしっかり定め、愛国主義を核心とする民族精神と改革創新を核心とする時代精神を大いに発揚し、社会主義栄辱観を樹立し、実行しなければならない」

「社会主義核心価値」を「国民教育」の中に溶け込ませるという意気込みに、1つの思想で国民をまとめ上げようという胡錦濤政権の強い意志を感じる。それは、そこまで強く言わなければならないほど、国民が1つになっていないことの表れである。「文化」という名を借りて、政治的な統制を強めようということである。しかし、「核心的価値」とは何を指すのかは明らかにしていない。6中全会終了日の『人民日報』に掲載された関連社説によれば、(1)マルクス主義の指導、(2)社会主義先進文化の前進方向、(3)人を基本とすること、(4)社会効益を第一とすること、(5)改革・開放、が「核心的価値」を指すことを示唆している。(1)は「マルクス主義」である。(2)は何となく江沢民が提唱した政治スローガンの「3つの代表」重要思想を意識した文言である。(3)は胡錦濤が提唱した政治スローガン。(4)はよく分からない。(5)は鄧小平の代名詞。これら5つの関連性がよく分からず、とにかく並べているだけで、いろんなグループに配慮しているように思われる。

(3) マスコミへの統制強化
(コミュニケからの引用)
「正確な創作方向を堅持し、哲学社会科学を繁栄、発展させ、新聞世論工作を強化、改善し、さらに多くの優秀な文芸作品を推しだし、健全なネット文化を発展させ、文化作品の評価システムや奨励メカニズムを完備しなければならない」

今回の6中全会の最も重要な意義は、「文化」の名を借りたマスコミへの統制強化にあるといえる。マスコミ統制を主管する共産党中央宣伝部と自由で、真実の報道をしたい一部マスコミとのつば競り合いが続いており、さらにインターネットなどの新興メディアの発達で一般人の情報に対する意識も高まっている。まさに共産党の情報統制は難しい状況に置かれている。とりわけ7月23日に発生した高速鉄道事故では、中国のマスコミが独自取材などにより原因分析や事故後の処理状況を詳しく報じ、鉄道部批判を強めた。これを一般の人々は歓迎した。しかし、鉄道部批判の行き過ぎを懸念した中央宣伝部が規制したところ、一部マスコミがそれを無視して独自報道を続けた。結果的に、規制が強化され、ある時を境に独自報道は消えた。

こうしたマスコミの「暴走」は中央宣伝部の逆鱗に触れ、独自報道の先頭を行った北京の新聞『京華時報』と『新京報』は経営自体を宣伝部直轄にされるなど厳しい「見せしめ」措置がとられた。また、全国のメディアの記者に対し「末端に行き、作風を転換し、文風を改めよ」キャンペーンが発動され、各メディアに、記者を地方の農村などに行かせ、末端の様子を取材させ、その記事を掲載するよう命じた。そのキャンペーンのもっともらしい意義は説明されているが、中央宣伝部の指示に従わなかったメディア、記者に対する懲罰行為に他ならない。

こうした背景から、6中全会でマスコミに対する統制強化が確認されたことは想像に難くない。そのことは、6中全会後に、国家ラジオ映画テレビ総局が「テレビ衛星総合チャンネルの番組管理をさらに強化することに関する意見」を通達し、娯楽番組数の削減、ニュース番組の増設を指示したことや、指導部が交代した中国全国新聞工作者協会第8期理事会第1回会議に、李長春、習近平、李克強の3人の中央政治局常務委員が出席する異例の事態となったこと、国家インターネット信息弁公室主催の中央新聞ウェブサイト責任者会議やウェブサイト・インターネット企業責任者研修会議が開催されたことなど具体的な統制強化の動きが活発化していることからもうかがい知ることができる。

胡錦濤から習近平への政権交代が予定されている第18回党大会までの1年、人事をめぐる党内の権力闘争から目が離せない。しかし、そうした動きを知ることはなかなか難しい。6中全会のような重要会議は数少ないヒントを与えてくれる。