skip to contents.

事業拡大を続ける韓国財閥

海外研究員レポート

韓国

2011年10月発行
PDFpdf(174KB)
韓国経済において大きな地位を占めている財閥が、近年再び拡大傾向をみせている。それに伴って財閥に対して、中小企業との共生のために努力すべきだとの声が高まっている。本レポートでは財閥拡大の実態と要因、問題点を分析するとともに、対応策に関する最近の韓国内での動きを報告する。

資産額、系列企業数ともに拡大する財閥
財閥の拡大はまず資産額の増大からみてとれる。図1から、上位10大財閥が2000年代後半を通じて資産額を着実に増加させ、特に2008年以降、増加率が高くなっていることがわかる。ここでの10大財閥とは公正取引委員会が公表している資産額上位企業集団のなかで現・元公営企業を除いた上位10グループの三星(サムスン)、現代自動車、SK、LG、ロッテ、現代重工業、GS、韓進、ハンファ、斗山を指す。各グループとも中核事業である電子、自動車、情報通信、化学、石油精製などが好調で、順調に事業規模を拡大した。その結果、製造業の売上高に占める10大財閥の割合は2007年の35.2%から2010年は41.1%へと上昇した。

図1 10大財閥の資産額と系列企業数の推移
図1 10大財閥の資産額と系列企業数の推移
(出所)公正取引委員会

(表1)10大財閥の新規グループ編入企業(2007-2011)
(注)網掛けは特に編集企業数が多い部分。
(表1)10大財閥の新規グループ編入企業(2007-2011)
(出所)経済政治実践市民連合「15台財閥の系列企業数及び新規編入業種分析結果」2011.7 表3を一部編集

図1からは財閥が2008年以降、単なる既存の事業規模の拡大だけでなくグループの系列企業数を大幅に増加させていることもみてとれる。財閥が系列企業数を増加させた直接の契機は2008年の総額出資制限制度の廃止である。それまで総資産10兆ウォン以上の財閥の系列企業は、独占禁止法上、他企業への出資を純資産の40%以下に制限されていた。財閥がたこ足的に企業数を増やして事業を拡大することを防ぐための制度であったが、ビジネスフレンドリーを標榜する李明博政権の下で、自由な経済活動を阻害しているとして廃止された。その結果、財閥は原則的に自由に企業を設立することが可能になり、企業数が急増することになったのである。そのなかには既存の事業活動の柔軟化を目的とした分社によるものが多数含まれているが、そればかりでなく上位財閥が積極的に取り組んだのが事業領域の拡大であった。表1は新たに財閥に編入された企業数を財閥別・業種別にみたものである。グループ別にはSK、LG、ロッテ、GSの系列企業数が特に増加している。業種別には非製造業の新系列企業が多いことが特徴的であり、これまで上位財閥が主に製造業を中心に成長してきたことを考えると大きな変化であると言える。具体的に多い業種は建設・不動産、卸売・小売、出版映像・放送通信・情報、科学技術・教育・事業支援(広告を含む)である。

新規編入の系列企業の多くは新たに設立された企業であったが、この時期には企業買収も活発化した。上位10大財閥による主な企業買収を示したものが表2である。買収の目的は様々である。SKグループのハナロテレコム買収やロッテグループによるヘテ飲料買収は既存事業の拡張という性格が強い。それに対してサムスン電子の医療機器メーカーのメディソン買収は新たな事業への進出と言える。サムスンはメディソンの関連企業数社も一括して買収しており、このことは表1からもうかがえる。サムスングループは将来の新規事業としてLED、太陽電池、自動車用2次電池、バイオ製薬、医療機器の5つを掲げており、メディソンはサムスンの医療機器事業進出の橋頭堡になるとみられる。LG生活健康は従来トイレタリー事業を主軸としていたが、最近はヘルスケア事業に力点を置くようになっており、飲料メーカーの相次ぐ買収はその延長線上にあると言えよう。現代自動車グループによる現代建設の買収、現代重工業グループによる現代オイルバンクの買収は、それぞれ新規事業への進出ではあるが、構造調整により旧現代グループから分離された企業を後継グループが取り戻す意味があったことは間違いない。


(表2)上位財閥の主な企業買収(2008-2011年)
(表2)上位財閥の主な企業買収(2008-2011年)
(出所)各種報道より作成。

1997年の通貨危機後を経て生き残った財閥は財務体質の強化を果たし、2000年代に入って品質重視の経営によって世界的に飛躍する企業を多く排出するなど新たな成長の段階に入った。2008年にリーマンショックに伴う金融危機があったものの、錦湖アシアナグループなどを除いて多くの財閥は大きな打撃を受けなかった。危機後、金融緩和や財政出動などの景気浮揚策、それにウォン安による輸出増加によって韓国経済がいちはやく回復軌道に乗ると、各グループとも規制緩和を利用して事業拡大を積極化させたのである。

事業拡大への3つの批判
これら財閥の系列企業の増加及び新規事業への進出に対して韓国内では批判の声が強まっている。批判は3つに分けられる。第1には大企業が、従来中小零細企業が担ってきた事業にまで進出して中小零細企業の生存を脅かしているというものである。韓国には2006年まで中小企業固有業種制度があり、法律に基づいて指定した業種について大企業の参入を制限していた。しかし規制緩和の流れを受けて同制度が廃止したところ、大企業がそれまで同制度に指定されていた業種に相次いで参入することになった。中小企業中央会の調査によれば、15業種に55の大企業が参入したという。また小売業ではロッテマートやEマートなどの総合スーパーや大手スーパーマーケットが急速に拡大し、伝統的な市場をはじめ零細小売業者は深刻な経営難に陥っている。

第2に、事業拡大が財閥の垂直的統合を目指している場合、それが独占的地位を利用して他の企業の活動を阻害する可能性があることである。今回の財閥拡大で目立つ業種として建設、情報システム、広告があるが、いずれもグループ系列企業からの受注を事業の柱にしている。例えば情報システム事業の場合、SKC&Cの売り上げのうちグループ関係企業が占める比率は64%に達する。同じく三星SDSは63%、LGCNSは45%がグループ関係者からの売り上げであるという。財閥の規模が大きいだけにグループ内の需要をまかなうだけで一定の事業規模を確保できるが、それだけ独立系の企業は仕事を失うことになって上位財閥への集中が進むことになる。しかもこれら財閥の新規企業は自ら事業をおこなうことなく中小企業に下請けに出すことが多く、独占的地位を利用して価格を安く設定して、いわば「中抜き」をして利益を出していると批判されている。例えば新しく設立されたMRO(消耗品購買代行事業)企業の場合、財閥系列企業全体の消耗品購買を一括しておこなうことにより、中小卸業者に対して強い価格交渉力を発揮して利益をあげているとされる。

第3に、こうした新たに設けた企業が財閥の財産継承の手段になっている可能性が指摘されている。新規企業について、財閥のオーナー家族、特に次世代継承者が大株主になっているケースがみられる。財閥の独占的地位で得られた新規企業の利益が配当や株式公開後の売却を通じて財閥の次世代家族経営者に移転されることになる。現在、相続税や贈与税、その他規制によって次世代への財産継承が難しくなっており、その新たな手段としてこれら新規企業が利用されている可能性がある。

強まる批判への対策
近年、社会的格差の広がりが大きく問題視されるなかで、財閥に対する批判は強さを増してきている。政府もこうした声を無視できず、2010年夏頃から大企業と中小企業の共生を強調し、財閥に対してそのための対策を求めるようになっている。同年11月には在来市場から半径500メートル以内に大型流通店舗の入店を禁止する流通産業発展法の改正が国会で議決された。さらに同年末には大企業と中小企業、公益代表からなる同伴成長委員会が発足した。委員長を務める鄭雲燦前総理(ソウル大名誉教授)が提唱した、大企業における一定以上の利潤を協力中小企業に分配する超過利潤共有制は財界の強い反対から実現しそうもないが、中小企業固有業種制度の事実上の復活といえる中小企業適合業種制度の導入については委員会で合意された。2011年9月に第一次選定品目が発表されたが、品目は豆腐、醤類、洗濯石けん、段ボール箱などに加え、三星、LG、現代自動車なども進出していた金型が含まれていた。公正取引委員会も財閥のグループ内部取引とそれを通じたオーナー家族の財産蓄積について調査をおこなうことを表明している。こうした流れを受けて、財閥の側でも何らかの対応をせざるを得なくなっている。三星グループは2011年7月にグループ内MROであるアイマーケットコリアを売却すると発表した。またSKグループも同8月、傘下MROコリアの社会的企業への転換を検討していることを明らかにした。

新たな財閥規制の導入か
急速な経済発展を遂げた韓国では就業者に占める自営業者の比率が高く、従来型の製造業やサービス業の多くでは中小零細業者を中心とした伝統的な産業組織が温存されている。そうした伝統的セクターへの大企業の参入は産業の近代化による効率化というプラスの効果があることはいうまでもない。しかし、韓国では大企業が少数の財閥にグループ化されている傾向があるために、大企業による事業領域の拡大は財閥への経済力集中の深化を招いてしまう。1997年の通貨危機直後から、韓国の財閥はそのガバナンスの脆弱性が注目され、改善策が議論されてきた。しかし2000年代後半以降、改めて財閥への経済力の集中が問題として浮上してきている。2012年には国会議員選挙と大統領選挙が控えている。社会的格差の問題は大きな争点のひとつとなる見通しであり、そのなかで新たな財閥規制が議論される可能性は高い。しかし韓国の持続的な成長をもたらしたのは三星電子や現代自動車など大企業の旺盛な企業活動によるものであることも事実であり、企業の自由な事業環境と社会的公平感とのバランスをいかにとっていくのか、今後の議論の行方に注目したい。