skip to contents.

拡大するインドネシアの公的部門-地方分権化に伴う公務員数の増加について

海外研究員レポート

インドネシア

2011年6月発行
PDFpdf(177KB)
はじめに
インドネシアで本格的な地方分権が実施されてから10年の月日が流れた。地方分権に伴う問題としては、地方首長らによる汚職、法律・憲法に抵触した内容の条例の制定と並んで、地方政府による財政運営手法に問題のあることがしばしば指摘される。そのうちの一つで、よく紙面にとりあげられるのが「地方に振り向けられる予算の多くが地域開発にではなく人件費として消えていく」という批判である(※1)。

ところで、少なからぬお金が人件費として使われているからには、もちろん多数の公務員が存在しているはずだが、はたしてこの国にいったい何人の公務員がいるのかこれまで確認したことがなかった。そこで今回の報告では、インドネシアの公務員数について、2004年から2009年にかけての6年分の情報をもとに、その水準ならびに変化をまとめることにした。なお、ここではインドネシア統計庁(BPS)により公開されている資料を用いてまとめているが、そのデータの継続性という観点から期間を2004 年(もしくは2003年)から2009年に限定することにした(※2)。

本報告の内容を先にまとめておこう。公務員数の変化・水準を確認してみたところ、インドネシアの総公務員数は観察期間に約1.3倍に膨らんでおり、その増加は行政単位として州の下に置かれている県・市(Kabupaten/Kotamadya)地方政府職員数の増加によるものであることが分かった。地理的には公務員数の増加はジャワ・バリ島といった中心部ではなく、その周辺に位置するスマトラ・カリマンタン・スラウェシ・パプアといった外島部で観察され、その傾向は15歳以上人口比でみた公務員数の場合にも同様であった。

図1 公務員数の変化
図1 公務員数の変化
出所)インドネシア統計庁『統計年鑑(Statistik Indonesia)』各年版をもとに筆者作成。

県・市政府公務員数の増加
インドネシアでは、2001年に実施された地方分権化とあいまって地方政府の分立が相次いだ。スハルト政権期が終わりを迎える直前の1996年末には27州(後に独立する東ティモールを含む)294県・市政府が存在していたが、2001年末には30州354県・市、2004年には33州440県・市、そして2009年8月時点で33州497県・市へと地方政府数は拡大の一途をたどっている。このことから、新しい地方政府の誕生とともに地方政府職員が増加していることが予想されよう。

実際に2003年から2009年までの全国の公務員数の変化を所属先別に追ってみたものが図1である。総数では354万人から452万人へとほぼ一貫して増加し続けていること、次いで県・市政府(Regency/Municipality)に所属する割合が最も高く、また、その増加が総公務員数の増加に反映されていることが分かる(※3)。これは州政府ならびに中央政府職員数がほぼ一定であるのと対照的な動きである。

図2 所在地別でみた公務員数の変化(2004-2009年)
図2 所在地別でみた公務員数の変化(2004-2009年)
出所)インドネシア統計庁『統計年鑑(Statistik Indonesia)』各年版をもとに筆者作成。

図2は州を単位とした公務員の地域別人数の変化をみたものである。2004年から2009年までに、インドネシア全体では公務員数は1.3 倍に膨らんでいるが、地域ごとに大きく違いのあることが分かる。まずジャワ・バリ島に含まれる諸州、すなわちジャカルタ、西ジャワ(Jawa Barat)、中ジャワ(Jawa Tengah)、ジョグジャカルタ(Yogyakarta)、東ジャワ(Jawa Timur)州は、1.4倍近くに膨れ上がったバンテン(Banten)を除くと1.2倍にも達していない。これは、外島部に所属する諸州が、北マルク州(Maluku Utara)は例外として、1.2倍以上に、場合によっては1.8倍近くにまで膨れ上がっている州もあることと比較すると大きな違いと言えよう。2004年以降、新しく43の県・市政府が設立されているが、そのうちジャワ・バリ島で実施された地方分立はわずか3件のみである。図1では公務員数の増加は県・市政府職員数の増加によるものであったことと考え合わせると、おそらくはこの地域別の県・市職員数の変化、中でも地方分立に伴う増員が、地域間での大きな違いを生み出しているものと思われる。

ところで、図2にみた外島での公務員数の顕著な増加については、ひょっとするとこれは人口比でみた場合にはジャワ・バリ島の公務員数がすでに十分大きく、外島に所属する地方政府は単にその差を埋めようとしているにすぎないのかもしれない。もしくは外島で急激に人口が増加しており、その対応策として公務員が増加しているかもしれない。

図3 公務員数の15歳以上人口比の二時点間比較(100人当たり人数、2004-2009年)
図3 公務員数の15歳以上人口比の二時点間比較(100人当たり人数、2004-2009年)
出所)インドネシア統計庁『統計年鑑(Statistik Indonesia)』ならびに同『労働統計 (Keadaan Angkata Kerja di Indonesia)』各年版をもとに筆者作成。

そこで次に、人数の変化ではなく人口比でみた公務員数の変化を確認してみよう。図3は15歳以上人口100人当たりに何人の公務員が各州に存在するかを計算し、2004年と2009年とで比較したものである。図からは、外島部諸州の公務員数比率は2004年時点からすでにジャワ・バリ島に所属する州よりも高くなっていること、そして2009年にはその比率がより高くなっている(45度線から上へ乖離している)ことが確認できる。つまり、人口比でみた場合にも外島での公務員数は相対的に多く、そしてその比率はより高まる傾向にあったということになる。

おわりに
これまでみてきたように、地方分権化に伴う地方分立の動きが、公的部門職員数の増加に大きく寄与してきたと考えられるが、この地方分立は2009 年2 月以降、中央政府によってその手続きがいったん停止されている(※4)。現在の地方政府分立のハードルがあまりにも低すぎるとして、中央政府は2012年に改正地方行政法を施行する目標を立てており、この猶予期間はそれまで続く方針である。そして今年4月になって、ようやく中央政府の地方分立指針の青写真が発表された。それによれば今後は2025年にかけて44州545県・市の設立が見込まれている(あくまでも指針であり目標値ではない、と政府は強調している(※5)。2004年から2009年にかけて60もの県・市が誕生しているため、政府の青写真が意味することは、これからさらに同程度の県・市が新たに加わる、ということである。だとするならば、特にこの報告で扱った期間をきちんと評価することは、今後の公的部門の拡大が、例えば民間部門の経済活動へ与える影響などを考慮する上できっと参考となるだろう。今後は、少しずつ手元に揃うであろう地方財政に関する情報などとともにより詳細な分析を試みたい。

参 考
  1. たとえば”Regional budgets spent on salaries, not development: Hatta.” The Jakarta Post, 8 June, 2011.
  2. 2004年以降は一貫した形式で資料が掲載されているが、それ以前については、そもそもまったく情報が掲載されていない場合や、掲載されていても地域別もしくは所属政府機関別の情報が得られない。2000年以前になると地域別公務員数・所属政府機関別の公務員数データは公開されているものの、後者については項目が2004 年以降と異なるため単純に比較できない。
  3. この数値をもとに計算すると、インドネシアの公務員数は人口1000 人あたり19.6人(2009年)となる。行政改革推進本部専門調査会の資料によれば、人口1000 人あたりの日本の公的部門職員数は33.6人(2005年)とされる。「公務員」の定義の違いから単純な比較は難しいが、インドネシアの数値は日本を下回っている。日本の公務員比率はフランス(同89.7人、2003 年)やイギリス(同78.8 人、2004年)、アメリカ(同78.4 人、2004 年)よりも低いため、インドネシアの公務員数が増加しているとはいえ、比率でいえばまだ先進諸国を下回っている状態である。
  4. 2009年2月3日、新州分立を延期した北スマトラ州議会の議長Abdul Aziz Angkat が新州の早期分立を求める群衆に囲まれた際、心臓発作を起こして死亡した。この事件を機に大統領は新しい地方政府の設立をいったん停止させ、今日に至っている(”Gamawan focuses autonomy elections.”The Jakarta Post, 30 October, 2009 )。
  5. ”Govt unveils new autonomy design.”The Jakarta Post, 21 April, 2011.