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ホーチミンの旧正月

海外研究員レポート

ベトナム

2011年4月発行
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本報告では、報告者が初めて体験したベトナム旧正月(以下、テト)の様子を、写真とともに紹介したい。

(1) 2011年はネコ年?!
ベトナムでは、2011年は「ウサギ年」ではなく「ネコ年」だ。ベトナムの干支は日本のそれとは少し異なり、「鼠、水牛、虎、猫、龍、蛇、馬、山羊、猿、鶏、犬、豚」で構成される。ネコ年にあたる今年のテト(2011年2月3日)前後、ホーチミンの街中はかわいらしいネコのオブジェでいっぱいになった。

なかでも、街中心部のグエンフエ通りでは、毎年「グエンフエ花通り」という催しが開催されており、テト休みの間じゅう、美しい花とネコであふれた。今年は物価高の影響もあり、例年に比べると花の量が少なかったということだが、それでもオフィス街に突如として現れた「花畑」の情景は、街中のさまざまな装飾のなかでも圧巻であった。


空飛ぶネコ。「かわいいもの好き」が多いベトナムらしい。
空飛ぶネコ。「かわいいもの好き」が多いベトナムらしい。

グエンフエ通りは、ホーチミンの庶民にとって、恰好の記念撮影場となっている。テト元旦から、美しいアオザイを身に纏って花の前でポーズをとる女性達を数多く見かけた。


少し前までは、白いパンツに色柄の上着というのが一般的なアオザイスタイルだったが、最近の若い女性の間では、白地の上着に色もののパンツという組み合わせが人気を集めている。

(2) 人々の過ごし方
日本の唱歌「お正月」と同様、ベトナムにもテトを迎える人々の気持ち・様子を歌う童謡がある。

Sắp Đến Tết Rồi (もうすぐテトがやってくる)

Sắp đến tết rồi, đến trường rất vui. (もうすぐテトだね、学校へ行くのも楽しいね。)
Sắp đến tết rồi, về nhà rất vui.   (もうすぐテトだね、家へ帰るのも楽しいね。)
Mẹ đang may áo mới nhé.    (お母さんは新しい服を縫っているよ。)
Ai cũng vui mừng ghê.     (だれもがとっても嬉しい気分だよ。)
Mùa xuân nay em đã lớn biết đi thăm ông bà.  (この春わたしがすっかり大きくなったことを、おじいちゃんおばあちゃんに知らせに行かなきゃ。)


このように弾む気持ちでテトを迎えるベトナムの人々は、テトのおおよそ1カ月前ごろから、買い出し準備に大忙しの日々を過ごす。テト前にはすべてを新しくするというのが通例のようで、食料品店、衣料品店、どこの店も人でごった返した。これまでも、毎年テト前になると、「インフレ」に関する新聞記事を目にしていたものだが、今回、テト前のホーチミンに身を置いてみて、こうして物価が上がっていくのだということを肌で感じることができた。

さて、1カ月もの間、心待ちにして迎えたテトを、ホーチミンの人々はどのようにして過ごしているのか。テト3日目に、我が家のお手伝いさんティエンさんとそのお兄さんの家を訪問する機会を得たので、そこで見聞きしたことをもとに、テトの過ごし方の一端を紹介したい。

(1) 食べ物
テトにはちまきを食べるのが一般的である。ちまきの形は北部と南部で異なる。

バインチュン(Bánh chủng)
バインチュン(Bánh chủng)

北部でよく食べられるちまき。食用カンナ(lá dông)の葉で包んで蒸されている。中心部から順に豚肉、緑豆の餡、もち米。味はやや塩辛い。

バインテト(Bánh tết)
バインテト(Bánh tết)

南部のお正月ちまき。もともとの形は円筒形で、バナナの皮で包まれている。餡の中身は緑豆のみ(肉なし)で、前記のバインチュンと比べるとほのかに甘い。

ちまきとともに食べられるのが、漬物(らっきょうなど)、ドライフルーツ、スイカなどである。スイカは太陽、ちまきは大地を表しているらしい。


ティエンさんのお兄さん宅の冷蔵庫には立派な鶏の丸焼きが据えられていた。旧暦30日に供養を済ませた後、元旦は肉・魚を(魚醤も)食べず(ăn chay)、それ以降に家族皆でこの丸焼きを食べるのだそうだ。冷蔵庫下段には、テト休みのために買いだめられた肉・魚や乳製品などもぎっしりと詰まっていた。

(2) お供え
仏壇へのお供え物としては、5色(ngũ sắc)の花、5種類の果物(ngũ trái)が、縁起がいいとされる。5種の果物については、「cầu(願う), vừa(程良く), đủ(十分に), xài(消費する), sung(充足する)」の韻を踏んだ「mãng cầu(カスタードアップル), dừa(ココナッツ), đu đủ(パパイヤ), xoài(マンゴー), xung(イチジク)」の5果を供えるのが南部では代表的なようだ。

ティエンさん宅(右)とティエンさんのお兄さん宅(左)の仏壇。
ティエンさん宅(右)とティエンさんのお兄さん宅(左)の仏壇。

ティエンさん宅(右)とティエンさんのお兄さん宅(左)の仏壇。上記の代表的な5果とは異なるが、5種の果物とスイカ、(写真では判別がつきにくいが)5色の花が飾られている。旧正月3が日は、先祖への祈りを欠かさないそうだ。

また、南部ベトナムでは、一般的に黄色い梅がテトを祝う花として使われる。ティエンさんのお兄さん宅の屋上にも、黄色い梅が綺麗に飾られていた。


(3)テトの余韻よ、いずこへ。
2011年のテト休みは、1月29日から2月8日の11日間であった。報告者の偏見で、8日以降も数週間は、みなテトの余韻にひたって働かないだろうと決め込んでいたのだが、予想に反し、庶民が通常の生活に戻るのは早かった。とくに今年は、テト後も一向に物価が下がらないということが、庶民のそうした動向に関係しているのではないかと思われる。

テト後の新聞報道によると、2月の消費者物価指数は、テト需要により2.09%上昇した。食料品にいたっては6%の上昇である。また、テト前に政策的に価格上昇を抑えられていた鉄資材や紙などについても、テト後すぐさま価格上昇した。さらに3月には、電気、原油など燃料価格の上昇から、あらゆる物の価格が軒並み上昇している。一方で、「給料は上がらない。」というぼやきをあちこちで聞く。このような状況下では、庶民はテトの余韻にひたっている間などなかったのではなかろうかと想像する。

ちなみに、テト後、ベトナム人の知人に会うたびに「買いだめした食べ物が家に大量に余っている。」という話を聞かされた。テト前、皆があまりに食料の買いだめに走るので、報告者はてっきりテト後1~2週間は店が開かないのかと思っていたが、実際にはテト4日目には大手スーパーは店を開けていた。ならば、それほど買いだめに走る必要はなかったのではないかと思うが、慣習というものはそう簡単には変わらないのだろう。庶民にとっては、残された食料品が唯一、テトの余韻といったところか。