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開発の現場から

開発とマイクロファイナンス -バヌアツの経験からの教訓

河原工
●マイクロファイナンスとは
マイクロファイナンスとは、低所得者向け小規模金融である。バングラデシュのグラミン銀行をはじめとして、マイクロファイナンスの実施機関は世界中にある。1960年代に「緑の革命」と呼ばれる米の高収量品種が導入されたときに、農民に化学肥料や農薬の導入と作業の機械化促進のため、政府主導で農業銀行や協同組合が設立されたのが発端である。1970年代には、グラミン銀行などが登場し、貧困層の自立支援を目的として小口融資の活動が実施された。1980年代になると、金融機関として発展した事例が成功例として取り上げられ、預金サービスの必要性が認識された。以後その活動は、常に改良が重ねられている。近年ではリース業務など複合的なサービスを提供する機関も育っている。

●マイクロファイナンスのアプローチ
現在のマイクロファイナンスの議論は二つのアプローチに集約できる。貧困層に直接支援するアプローチと、金融機関の自立を目指すアプローチである。

貧困層に直接支援するアプローチでは、対象を最貧困層とし、小口融資を通じた人々の自立を目指している。最貧困層でも、融資の機会があれば事業を拡大し収入も増えるという考えに立つ。手続きを簡素化し、資金が必要な時に即座に対応できる体制を作り、必要に応じて技術やマーケティング指導などきめ細かく対応している。反面、NGOなどが実施していることが多く、法律も含め制度上の限界から、預金の機能を持つことはできず、資金調達には外部からの支援が必要であり、自立した金融の組織には構造上なりにくい。

金融機関としての自立を目指すアプローチは、対象を最貧困層から零細企業までと間口を広げ、預金や送金のサービスなども含んだ金融サービスにより経済活動の底上げを図り最貧困層へのアプローチを図る。最貧困層にも預金のニーズがあるという考えに立ち、安心してお金を預けることができる、いわゆる潰れない金融機関を目指している。以前、中央政府からの補助金に頼っていた農業銀行が預金を積極的に受け入れるようになり、金融機関としての財務体質の改善が図られ、成功例として取り上げられた。反面、金融機関として財務体質の強化を目指せば離島や辺境地などでの活動はどうしても疎遠になり、一般的にこのような地域に最貧困層が存在するため、結果としてそれらの人々を排除してしまう。

●マイクロファイナンスの効果と仕組み
貧困層に直接支援するアプローチを成功させたグラミン銀行が与えた影響は計り知れない。以前は融資を受ける機会さえも無かった女性(グラミン銀行の借入者のほとんどが女性)が小口融資を通じて収入向上活動ができた。家庭や村での地位向上にも貢献した効果は実証済みである。具体的な方法として、五人組の連帯責任制の導入が有名である。借り入れを申し込みたい人は五人組を作る。融資を得られるのは順番で、一人が返済を完了しないと次の人が融資を得られない。この仲間を裏切れない気持ちと、仲間からの見えないプレッシャーが金融機関にとっての担保となる。また、事前にグループを作らせることにより、彼女たちが第1次審査を行うことになる。グラミン方式として世界各地に広まったが、適応に失敗した例も多い。筆者は、形成された仲間の意識や背景で成否が決まると考える。金融機関の職員がきめ細かく顧客へフォローできるかも重要な点である。

金融機関の自立を目指すアプローチの効果は、貧困層の預金のニーズに応えた点である。預金は融資と同じように重要である。そのため近年では、「マイクロクレジット」(小規模融資)ではなく「マイクロファイナンス」(小規模金融)という表現がより広く用いられるようになっている。貯めたお金を安心して預ける所があれば、仲間で預金をし始め、活動が活発になるかもしれない。組織強化の手段にもなろう。

両アプローチに共通する課題もある。適度に人口密度が高く、顧客までのアクセスが良くなければならない。顧客も、高い交通費と時間を割いてまで頻繁に金融機関に来るわけがない。顧客と実施機関の双方の取引費用が高いと失敗につながる。

貧困層の状況を改善させるには、マイクロファイナンスだけでは無理である。技術研修、マーケッティングの情報、ビジネス環境や最低限のインフラを整える必要がある。ただし、これらの支援を行うにしても外部からの資金や技術協力の支援が必要である。とはいえ補助金にはあまり依存しない方が良い。金融機関の懐が痛まないことを知って返済しない人が出てくるからである。新聞に補助金や援助による低利融資の記事が載ると、「これは融資ではなく援助だ」と都合よく考える人たちも現れ、まじめに払っている人たちにまで悪影響が出る。このようなことが度重なると銀行の職員の志気も下がり、通常業務さえもはかどらなくなる。実はこれが一番怖い。

現金が動かないとマイクロファイナンスは利用されにくい。タイの村では、米の収穫が悪い年に、現金ではなく米を借りて、後に労働力で返済する場合がある。換金作物や手工芸品のように現金が動くプロジェクトを同時に実施するのであれば、マイクロファイナンスは利用されやすい。

●バヌアツの経験からの教訓
筆者は太平洋の島国であるバヌアツで銀行員として働いた経験がある。農村部で小規模融資の貸し出しと回収に携わっていた。マイクロファイナンスの理論は難しいものではないが、私の失敗談から実情の難しさを紹介してみたい。

取引費用が高く、顧客との取引が疎遠となった例を挙げる。支店長と1週間かけて、車では行けない村に飛行機と小型ボートで、貸付金の返済取立て旅行に出掛けたことがある。結果は、二人の交通費が回収した額よりも高くなった。顧客にとっても、1万円を返済するのに、ボートとトラックの運賃が5,000円必要では支店に来ないのも当然である。銀行員の視点に立つと、近くの顧客に特化すべきであるが、辺境地にこそ外部の手助けを必要としている人達がいた。失敗の別の原因は、事前にラジオで訪問日をアナウンスしたことである。借り手の多くが、取り立てを逃れるためか山の中の畑に出掛けてしまったからである。

非金融サービスの必要性の例として、小型ボートのエンジンの購入資金の融資をあげる。技術訓練は漁業局によって行なわれていたものの、離島の魚の値段と需要を考えると、首都の島まで魚を輸送しなければ利益がでない。しかし、首都で他の島からの魚との競争に勝てるか充分調べずに、手続きを進めた。今にして思えば、融資だけでなく、マーケット情報や技術移転も同時に必要であったと、悔やまれる。

バヌアツでは地方電化プロジェクトにも携わった。村人が電気代を払う仕組み作りが業務であったが、マイクロファイナンスの理論がそのまま応用できた。料金の支払いが優良な顧客は村の中でも比較的裕福な人達か、電気を使って何か商売をしていた意欲のある人達であった。貧困対策を目指すのなら、収入向上活動の指導も必要であろう。しかし、そのための外部支援が必要になり、電力供給機関としての自立性の妨げとなる。一方、電力供給機関の自立性を目指すのなら、電気を利用する裕福な世帯に特化すればよい。悩みは同じである。援助の究極な目標が貧困削減であるなら、マイクロファイナンスを活動の一つと位置付け、地域の社会・経済状況を踏まえた総合的な支援が必要である。

(かわはらたくみ/アイ・シー・ネット(株)、開発スクール8期生)