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開発と企業 -中東欧移行経済のビジネス環境

石井里香
ベルリンの壁崩壊後14年、旧共産体制下にあった中東欧諸国は急激な体制改革を遂げた。欧州復興開発銀行(EBRD)の投資対象である27の移行経済諸国の大半では、現在GDPの六割以上、雇用の7割以上が民間セクターで占められている。ほとんどの国において価格や貿易の自由化は達成され、市場経済の基本である金融セクターや法制度の改革が進んでいる。当該地域のGDPは共産体制崩壊直後の経済破綻を乗り越え、今や体制崩壊前の水準の8割以上に達した。この過程で民間企業の果たした役割は多大である。

EBRDは中東欧の旧共産圏諸国の市場経済への移行を支援するために1991年に設立され、主に民間企業向けの資金供与を行ってきた。我々の投資経験によって明らかなのは、ビジネス環境の企業成長にとっての重要性である。しかしながら、当行の支援対象国では、企業は依然としてさまざまな障害に直面しており、経済が今後とも持続的に成長するためには、これらの障害を取り除いていかなくてはならない。

このような背景から、EBRDのチーフ・エコノミスト・オフィスでは世界銀行と協調して1999年と2002年の2回、ビジネス環境に関する企業調査を実施した。1999年の調査は移行経済25カ国における4,102社を対象とし、2002年において26カ国の6,153社を対象とした。調査は合計100の質問で構成され、各企業の見地を反映する。本稿では、この調査結果から得られた企業とビジネス環境に関する主な結論を紹介したい。

●ビジネス環境の動向
両調査は、税制、規制、司法、金融、インフラ、犯罪、腐敗の主7分野に関して障害がみられるかどうか質問した。2002年と1999年の結果を比較すると、全分野にわたってビジネス環境は改善していることが判明した。特に、税制、金融、犯罪の分野で大幅な改善がみられた。それに対し、司法、規制、腐敗の分野ではあまり改善がみられなかった。国別によると、キルギス共和国、カザフスタン、アゼルバイジャン、ロシア等移行の進展が遅れているCIS(バルト3国を除く旧ソ連)諸国で著しい改善がみられた。2002年の国別のビジネス環境の水準を比較すると、スロベニア、ハンガリー、エストニア、ラトビア等のEU加盟候補国、ならびにアゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン等、天然資源が豊かで独裁主義のCIS諸国がもっともビジネス環境が良好であるとの結果が得られた。

●障害によるコスト
前述の7分野をさらに細く分析すると、全般的に環境は改善しつつも企業は未だに残る障害によって高いコストを払わされていることがわかった。税制面では、脱税の度合いと税務職員への賄賂の支払いの度合いとに相関関係がみられた。税務職員に対する賄賂の支払いを行う企業の割合が高い国では、実際の売り上げ高と申請額との間に大きな格差がみられた。規制に関しては、官僚に対する賄賂の支払いの度合いと企業幹部が官僚に対して費やす時間との間に相関関係がある。つまり、規制が過剰な国では、企業幹部は貴重な時間を官僚との対応に費やし、また、賄賂の支払いを必要とする。

国によってはインフラ欠如により、企業は営業日数の喪失というコストを支払わされている。この問題は中央アジア・コーカサスの国々、ならびにアルバニア、モルドバ、ウクライナで顕著であった。これらの国々では、営業日の40日以上がインフラの不整備により失われている。金融に関しては、金融機関のサービスの質が悪い国ほど企業は投資の資金需要を内部資金留保に依存している。

犯罪も企業にとって高くつく。国によっては、犯罪により、売り上げの相当な割合を失っている。例えばキルギス共和国では、企業は平均で収入の5%を犯罪によって失っている。贈収賄はすべての国で未だ顕著である。調査対象26カ国中、14カ国において企業の5割以上が贈収賄を行ったことがあると報告した。贈収賄が最も低いリトアニアで収入の0.5%、最も高いキルギスで3.7%の支払いがなされた。

●企業と腐敗
当該調査は企業がどの程度、司法・行政・立法等の政府機関の人員に対して、法律や規制面で影響を与えるために贈収賄を行っているか(腐敗)も調査した。それによると、政策に影響を与えるための贈賄が活発なセクターや地域では、贈賄により、自企業の活動に影響が出ていると回答した企業の割合が高かった。

企業の業績をみると、贈賄を行っている企業の方がそうでない企業に比べ、投資を活発に行い、収入の増加も目覚しく、はるかに高い生産性の成長がみられた。また、他企業の贈賄が自企業の活動に影響があると答えた企業は、影響がないと答えた企業に比べ、売り上げの成長は乏しく、生産性の低下が一段と激しかった。贈賄を行っている企業の収入の伸び率は、他企業の贈賄が自企業の活動に影響があると答えた企業の4倍であった。

これらは何を意味するか。シニカルな見方をすれば、贈賄にはそれなりのメリットがあるといえる。しかし、経済全般への影響を考慮すると、一部企業の贈賄行為(腐敗)は、自企業に優位な政策により競争を妨げ、結果的に不当な利益を享受しているといえる。

●ビジネス環境と企業成長
ビジネス環境はどれだけ企業成長に貢献しているか。まず注目するべき点は、固定資産の伸びの企業売上げ増加への大幅な貢献である。その貢献の度合い(限界成長率)は、最も低い小売・卸売りセクターで0.33、最も高い運輸・倉庫・通信セクターでは0.75に至った。ちなみに先進工業国においてこの値は通常どのセクターでも0.33と試算されている。また設備稼働率も企業収入成長に大きく貢献しており、固定資産と設備稼働率の伸びを合わせると企業売上げ成長率の50-75%程度の貢献をしていた。一方で、雇用増加の企業収入に対する影響はほとんどなかった。

資本の伸びが企業収入成長に大きな貢献をしていることを踏まえ、1999年のビジネス環境と1999-2002年における投資成長率との相関関係をみてみた。これによると、ビジネス環境が1999年において良好な国ほど、その後3年において投資の高い伸び率がみられた。

●結論
中東欧の移行経済諸国においては、近年ビジネス環境の大幅な改善がみられたもののさらなる改善の余地がある。特に内部資金への依存度、腐敗、犯罪は企業にとってはいまだに高いコストとなっている。

最も重要な点は、ビジネス環境の向上は企業成長を助成するということである。しかしながら、腐敗は贈収賄行為に及んでいる企業のパフォーマンスを向上させる一方、その他の企業の犠牲を強いる。これはある意味で勝者と敗者との利益分配のゲームであるが、敗者には消費者も含まれる点を配慮するべきであろう。

(いしいりか/欧州復興開発銀行プリンシパル・エコノミスト、開発スクール4期生)