地雷の問題は、戦時中のみならず、戦後も被害対象を拡大することである。近年、地雷除去活動は、人道的活動としての側面と地域開発につながる側面が重視されるようになった。これは、軍事的な除去活動に対し、人道的地雷除去活動として位置付けられるもので、「地雷による犠牲者をなくし、安全を確保した土地に住民を帰還させ、居住・農業・開発を可能にすること」が目的である。そして、活動の評価基準は、単なる「地雷の除去数」から「地雷原の広さとその中に含まれる地域社会数、地雷に汚染された土地の種類、地雷除去の社会経済的影響」に焦点が当てられるようになった。
このような背景から筆者は、プノンペン大学赴任中に、「地雷廃絶日本キャンペーン」より「地雷除去による社会経済的影響」の調査依頼を受けた。調査は、2001年1月、タイ国境に隣接するカンボジア北西部バッタンバン州の二つの農村で実施された。当州は地雷被害者数(絶対数)において、最も被害の大きい地域なのである。
本稿では、その調査を通して得た知見から、地雷の問題、地雷除去における社会経済的影響と社会復興の関係を述べてみたい。
●地雷について
地雷には大別して、「対人地雷」と「対戦車地雷」がある。前者は人間の殺傷を、後者は車両の破壊能力を持つ武器である。このうち、人道的な見地から規制されているのは、対人地雷である。
地雷の軍事的効果には、単に兵員の殺傷だけではなく、被害者の搬送、治療にかかる人手やコストの消耗から、士気の低下がある。また、地雷の非軍事的効果には、土地の生産力減退、市民の殺傷被害の増大、コミュニティの社会的経済的疲労と消耗、国家の経済活動の停滞・低下がある。
地雷問題の多くは、冷戦構造のもとで頻発した地域紛争で地雷が多用されたために発生した。国境線を争う国家間戦争と異なり、自国内での紛争は前線が無数に存在する。地雷の使用方法も非軍事的目的の用途が少なくない。その結果、国中に多数の地雷原をつくってしまうのである。
●地雷埋設の現状
カンボジアにおける地雷埋設数は、400万~600万個と推定されている。推定には200万個もの幅があるが、これは地雷埋設の過程と方法に原因がある。
第一に、地雷埋設にあたっては、国際法で「地雷地図」の作成が要求されているのに、この条項がほとんど守られなかった。
第二に、戦略上は不必要なほどの高密度で地雷埋設が行われた。通常、幅1メートル・奥行き5~6メートルに1個の地雷で有効とされているのに、カンボジアでは1平方メートルに数個の地雷が埋設されていることがある。
結局、地雷原を特定するためには、被害がでた際に「その一帯は地雷原」であると経験的に認識していくことが一番確実である。要するに、どこにいくつ地雷が埋められているのか、未だ推定の域をでないのが実情である。
●地雷被害の構造
地雷は「貧者の武器」といわれているが、地雷被害の構造を特徴付けるものである。
第一に、対人地雷の場合、製造・運搬・貯蔵・埋設のすべてにわたって低コストで容易に使用できる。また、地雷は武器としての機能が長期間持続する。第二次大戦中の地雷が今になって起爆したという報告からも、機能の持続性は半永久的と考えられている。したがって、地雷は除去するしかない。その除去作業には、入手時の100倍ほどのコストがかかる。この費用は、国家財政を疲弊させる要因となる。
第二に、地雷は経済的被害を拡大する。カンボジアの総労働人口の75%は農業従事者である。そして、地雷の被害は農村地帯に集中している。さらに、地雷(不発弾を含む)の被害者の75%は18歳以上の成人男性だと報告されている。生産年齢人口の被害は、各世帯の家計への打撃、国家全体の経済水準の停滞ないし低下という点で、経済のあらゆるレベルに影響を及ぼす。
第三に、地雷被害者層の貧困の連鎖が問題になる。一般に、貧困者はリスクの多い(地雷原の可能性の高い)土地を入手することになる。貧困世帯に被害者が出た場合、生産労働力の損失により家計は圧迫される。逼迫した家計の切り盛りは、家人にさらなる危険を冒すことを要求しかねない。
要約すると、カンボジアでは、貧困者が「地雷による被害」を一番多く引き受ける構造になっているのである。
●調査結果の概要
調査地2村の地雷除去状況は以下のとおりである。A村では、244世帯中71世帯分の居住地で地雷が除去されており、村内に除去地と地雷原が併存している。B村では、小学校・パゴダ・市場・井戸など公共的な場所の地雷除去が完了している。
ここで提示する調査結果は、2村を区別なく総合的にまとめたものである。
第一に、地雷除去区域内は、そうでない区域に比べて世帯数の増加がみられた。除去済の家屋敷の親や親戚を頼ってきた、すなわち自分達の場所があるにもかかわらず安全な地を選んで住もうとする人々がいた。
第二に、地雷除去地に小学校が建設されたことが、親の心身の負担を大きく軽減することになった。家から村内の学校までの通学距離が短縮されると、子供の危険の度合も小さくなり、親は安心できる。また、通学が徒歩圏内になると、通学手段(自転車など)への出費や送迎の負担がなくなる。
第三に、地雷除去によって井戸ができると、飲料水の衛生問題が改善された。また、徒歩圏内に医療機関が設置されたことで、その利用頻度を高めることになった。
第四に、両村とも農外就業者の増加がみられた。これは経済活動の多様化の兆しでもある。国道に沿って位置するこれらの村にとって、国道および村内の除去地を拡大することが、人々の移動を解放し、商業の機会増大に貢献することにつながっている。
●地雷除去の精神的・社会経済的影響
地雷除去は、村人に精神的な安定感をもたらした。これは、他の社会経済的な側面に波及する重要な地雷除去の影響とみることができる。特に、地雷原に居住することで最も心配なのは子供の被害である。目の行き届かない場所での子供の行動が親の心労を増やし、子供の監督のために親は家を空けられないというケースが少なくない。
地雷の脅威は人々の行動を規制し、社会生活のパターンに影響を与えている。
次に、地雷除去の経済活動における影響についてである。調査村には貨幣経済展開の兆しがみえる。自給自足経済が崩壊したあと、換金作物・物品の生産が不可欠になる。地雷除去によって市場の建設や商人の招致が可能になり、村人の生活基盤の新たな支えとなる。また、学校建設は通学時間を短縮し、交通手段のコストや送迎などの労力を削減させる。これによる余剰労働力は、他の経済活動に再投下できる。さらに、井戸による飲料水の確保や医療機関へのアクセスを容易にすることは疾病の頻度を抑え、医療費負担を軽減することにつながる。医療費は恒常的に支出されるものではないが、経済的に余裕のない家計では一番負担になる支出項目である。
地雷除去の社会経済的影響に焦点を当てるならば、除去対象地域の生活基盤がどこにあるのか把握する必要がある。また、長期的視野に立てば、社会経済的変化に伴い、人々のライフスタイルも必ず変化する。今後は、カンボジア社会の復興過程における近代化と、それに伴う変化をも念頭においた地雷除去計画が必要であろう。
(さかなしゆきこ/国内客員研究員)