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開発と森林保全 —森林の多様な機能/中国

標高2800メートルに設置された昭覚県モデル苗畑
標高2800メートルに設置された
昭覚県モデル苗畑
吉浦伸二
「私たちは生態環境建設者の一人として積極的に森林造成、森林保護に努力します!」これは今年3月に京都で開催された第3回世界水フォーラム「水と森林分科会」で報告された「水と森林」涼山州地方会議の宣言文である。森林は水源涵養、洪水防止など水資源の保全と維持に重要な役割を果たしているが、森林の問題と水の問題をそれぞれの関係者が同じテーブルで議論し行動につなげるために世界水フォーラムに「水と森林分科会」が設置された。この宣言は国際協力事業団(JICA)が中国で実施している四川省森林造成モデル計画プロジェクトの楊氏のプレゼンテーションの1コマである。本稿では筆者が最近訪問したこのプロジェクトの活動を紹介し開発と森林保全を考える端緒としたい。

●長江上流に森林を回復する
1998年夏に長江のほぼ全域で発生した洪水は建国以来最悪と言われ、被災者は2億人を超えた。この原因のひとつは上流の森林の荒廃にあると指摘されている。中国政府は長江上流の四川省安寧河流域における水土流出の減少、少数民族地域の経済発展および現地農民の貧困緩和を目的として、同流域における植林モデル地域の造成、モデル苗畑の建設、開発された技術の普及を行うプロジェクトを我が国に提案した。

JICAは数次にわたる自然、社会、経済条件の調査の後、2000年7月から五名の長期専門家を四川省涼山州彝(イ)族自治州西昌市に派遣し協力を開始した。四川省は日本の国土の約1.4倍の面積を有し、東部は四川盆地、西部は山岳地帯となっている。プロジェクトサイトは省都の成昌から約550キロ南西に位置する安寧河中流の州都西昌市および喜徳県、昭覚県の三市県。山岳地であり3市県の合計面積74万9,000ヘクタール(宮崎県よりやや小さい)のうち、土地区分が森林となっている面積は六割を超えるが、そこには地力が減退し林木が十分に生育できない無立木地が16万2,000ヘクタール、灌木地・草地・岩石地等が14万4,000ヘクタール含まれており、これらを除くと山岳地帯でありながら森林が占める割合は2割となってしまう(参考までに宮崎県ではこの割合は7割を超えている)。

涼山州1市16県の人口の半数が少数民族の彝族であり、喜徳県では人口の85%を彝族が占める。10県が国指定の貧困県であり喜徳、昭覚の2県もその貧困県に含まれる。山の斜面の耕作可能なところにはトウモロコシ、ジャガイモやソバ、クワなどが栽培されているが、それ以外は無立木地や草地が広がっている。JICAの調査報告書によると、森林が退化したのは100年以上前からといわれ、焼畑や用材、燃料としての伐採、農地化また家畜の過放牧がその原因と考えられる。

●プロジェクト活動と中間時点の成果
プロジェクトではこのような土壌が荒廃した地域でも成長が可能な苗木を生産する技術と、この苗木を植栽し森林を造成する造林技術を開発し、これらの技術により州政府および住民が500ヘクタール以上の造林を行うことを目標として活動を行っている。また森林が育つためには樹木を育てるだけではなく樹木が守られることも重要である。例えば不注意なたばこの火から森林火災が発生すれば、育成にかけた時間に比べればまさに一瞬にして森林は失われてしまう。家畜が放されれば、苗畑で苦労して育てたポット苗を急斜面を背中に担いで運び、乾いて岩のように堅い土を鉄棒で突いて40センチの穴を開けやっと植えた苗木が、家畜の胃袋に消えてしまう。人間は森林を育てることもあればその成長を妨げることもある。したがって、プロジェクト活動のひとつとして、地域住民に森林保全の必要性を理解してもらうための啓発も行っている。

両国の専門家が共同事業を開始して約2年半が経過した2003年1月に日中合同の中間評価が行われ進捗状況が確認された。苗木生産技術については2カ所に建設された苗畑で36万本の苗木生産が可能になるとともに、効率的に丈夫な苗木を生産するための20項目以上の苗畑試験が行われ貴重なデータが集められている。特に昭覚県苗畑は海抜2,800メートル地点に設置され、涼山州の高海抜地の造林に適した苗木生産技術の開発拠点として大きな期待が寄せられている。

造林技術では試験区も含めたモデル林が既に161ヘクタール造成され、ニセアカシア、ネムノキ、カラマツ、ギンネムなど土壌、地形に適した樹種が選定されている。造林事業を通じて参加住民は苗木を植える前の整地、植え穴の堀削、施肥など一連の造林技術を修得しつつある。住民はプロジェクトの造林作業で身につけた技術を独自に行う植林にも活かし始めているようだ。

中国政府は山林を開墾してできた急傾斜地の耕地を林地に回復するために退耕還林という奨励制度を実施してきた。農民にとっては生産力は低いとはいえ貴重な農地は手放せないが、この制度では傾斜が25度以上の農地を林地に転換した場合には補助基準により苗木代、食糧、医療・教育費が支給されることから過去四年間で約600万ヘクタールの土地が樹木・草に被覆されたといわれている。涼山州でも盛んに農民はこの制度を申し込むため、林業局は対象耕地の測量や登録に大わらわであるらしい。政府の政策に農民が呼応し植林に向かっている時に、このプロジェクトの成果である苗木と造林技術を提供できることは時宜を得たものとなっている。

訓練・普及分野では約200人の3市県林業局中堅技術者に対する技術訓練、農民に対する苗木生産技術の普及、ビデオやポスターによる啓発・広報を行った。調査中に自宅に招いてくれた西昌市の農家の李さんは、長江洪水の直後にプロジェクトから森林の減少と洪水との関係を教えられて造林の重要性を理解し、今では村の植林活動の中心となっているとの話を聞かせてくれた。

●多様で緊急を要する森林分野技術協力
1992年の国連環境開発会議(地球サミット)では持続可能な開発が議論され、その重要な要素として持続的な森林管理の必要性が認識された。森林に関する初めての世界的合意である「森林原則声明」の前文では「森林問題は環境と開発のすべての問題に関連し総合的に検討されるべきである」と述べている。各国政府が追求すべき原則のひとつは森林の機能を発揮させるための保全と持続的経営の努力の重要性であり、森林の機能としては生態系の維持、生物多様性の宝庫、エネルギー資源、炭素の吸収源、雇用の創出などがあげられている。

ここで紹介したプロジェクトの主目的は森林の持つ土壌および水資源の保全機能の回復にあるが、途上国の森林を取り巻く状況は多様であり、また一度失われると回復が困難であるという意味で緊急を要する。JICA森林環境協力課では2003年3月現在13カ国で18件のプロジェクトを実施し、途上国の森を守り人々の生活をより豊かなものにする努力を支援している。個々のプロジェクトの成果を最大化する努力とともに、多様なニーズにいかに対応し国際社会の森林保全の取り組みの一翼を担っていくか、現在106カ国についての森林分野データの見直し、過去に行ってきたプロジェクトの経験のとりまとめ、今後特に重要となる地域住民が主体となる取り組みについてはこれまでに不足していた手法や考え方の形成など、組織内外の知恵を集めているところである。

(よしうらしんじ/前国際協力事業団森林・自然環境協力部森林環境協力課長/開発スクール第1期生)