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開発と麻薬 —乱用防止への国際的な取り組み

IDEAS8期生 金森将吾氏
IDEAS8期生 金森将吾氏
金森将吾
麻薬撲滅は多くの途上国において大きな課題である。近年、国際社会において、麻薬はヒューマンセキュリティー問題の一つとして明文化されることが多く、国際機関を含む援助機関に注目されつつある分野である。しかしながら、少なくとも日本においては、この問題が、途上国開発の問題の一つとして取り上げられることは少ない。本稿は、麻薬の問題を、できる限り途上国、特に東南アジア地域の開発の視点から取り上げていきたい。具体的には、麻薬の問題が世界規模でどれほど深刻であり、どういった社会的な影響を及ぼしているのか、また、各国および国際機関において、この問題解決のためにどういった対策が施されているかを追っていきたい(注—「麻薬」という語は厳密にはヘロイン等の一部の違法薬物のみを指すため、以下では違法薬物全体を示す場合に「薬物」と表記する)。

●東南アジアにおける薬物乱用の実状
国連薬物統制計画(United Nations International Drug Control Programme=UNDCP)のまとめたデータによると、1990年代後半の年間薬物乱用者数は全世界でおよそ1億8500万人(15歳以上人口の4.3%)と推定される。各薬物の推定年間乱用者数、生産過程および主な生産拠点を表1にまとめた。

東南アジアにおいては、近年、特に覚せい剤の押収量および乱用者の著しい増加が報告されている。覚せい剤の年間乱用者数の15歳以上人口に占める割合は、タイ、フィリピンにおいてそれぞれ5.9%(2001年度)、2.8%(2000年度)と報告されている。また、バンコク最大の薬物治療施設であるタニヤラック病院においては、10年前の入所者はヘロイン依存者が全体の90%を占めていたが、現在では覚せい剤依存者が70%を占めている。

さらに、近年は注射器による薬物の回し打ちを原因とするHIVおよび肝炎の感染が大きな問題となっている。例えば、ミャンマーにおいては、登録されている薬物静注者(薬物を注射使用する人)の約60%がHIV感染者であり、同様にタイでは30~40%である。

●薬物乱用の社会的影響
薬物乱用はほとんどの場合、犯罪と関係している。薬物乱用それ自体が多くの国で刑事犯罪となっているほか、財産犯罪や暴力犯罪を助長する要因でもある。タイの刑務所を例に取ると、入所者の60%以上は薬物絡みの犯罪で服役している。また、薬物取引への経済的な依存と薬物中毒により、多くの人々が犯罪組織による搾取の対象になっていることが指摘されている。

薬物乱用のもう一つの社会的悪影響としては、労働者の生産性の低下が挙げられる。ある研究によれば、米国の1995年度の薬物乱用による生産性の喪失はGDPの1.1%に相当することが報告されている。現在のところ、途上国においてこのような生産性喪失を測定する試みは行われていないが、薬物が大きな問題となっている国では、薬物乱用が経済発展に影響を及ぼしている可能性は大きい。

●途上国の薬物の需要・供給削減取り組み
1998年の「薬物問題に関する国連特別総会」において薬物問題に対する三つの重点目標が採択された(表2)。現在、UNDCPを含む国際機関および途上国各国は、これらの目標を柱として薬物問題に取り組んでいる。現在途上国で行われている活動は以下の二つに大別できる。

第一は、薬物の需要削減である。具体的には、薬物乱用の一次予防と、薬物依存者の治療およびリハビリがその内容である。予防活動は比較的実行が容易であるため、多くの途上国で、特にNGOが中心となって行われている。学校やコミュニティを拠点とした薬物防止教育、および青少年活動の推進等がこれらの活動の中心である。

薬物依存者の治療は、その意義についてしばしば大きな議論を呼ぶ。薬物乱用者は刑務所に送って、薬物に無縁の生活をしばらく送れば依存から脱却できるのではないか、と考える向きもあろう。しかしながら、ほとんどの薬物依存者は社会生活を営むのに必要な基盤(仕事を得るための技術、健全な友人、家族のサポート等)を持っておらず、刑務所等で薬物を使用しない一定期間を経ても、刑期終了後には薬物乱用を再開してしまう可能性が非常に高い。米国のある研究によれば、90%以上が薬物乱用を再開するとされている。こうしたことを踏まえて、薬物依存者に対しては薬物治療のみならず、健全な社会生活に戻るための準備、および職業訓練が推進されている。

東南アジアにおける需要削減活動の事例としては、1990年代後半に実施されたUNDCPの地域プロジェクトが挙げられる。薬物乱用の問題を抱える山岳地帯の17の貧困村を対象に、予防活動、乱用者の治療に加え、更生者を抱える家族への小規模金融等による支援を実施し、薬物の需要を大幅に削減した。

第二のタイプの活動は薬物の供給削減である。アフガニスタン、ミャンマーにおける栽培が全世界の90%以上を占めているケシについては、供給源を絶つことが不可欠である。このためにはケシ畑をすべて焼き払ってしまえばよいという考え方もあるだろう。しかしながら、ケシの収入のみによって生計を立てている農民の生活を無視することはできない。したがってケシやコカの栽培地では、代替作物の栽培を推進することによって不法作物の栽培を減少させる活動が進められている。また、不法作物が栽培される地域は概して地理的に孤立していることが多く、代替作物の推進に合わせて、それらの換金作物を輸送するための道路の敷設や輸送機関の確保が必要である。UNDCPは1990年初めから、ラオスのパラベック地域に5年間にわたって支援を行い、代替作物推進およびインフラ整備に取り組み、同地域のアヘン年間生産量を3.5トンから100キロ未満に減少させることに成功している。

また、薬物の供給削減のためには、生産の抑制に加えて違法薬物取り締まり制度の整備も必要である。具体的には関連法規の整備や、国境地帯における薬物押収のための技術移転が進められている。

●国家・地域レベルの支援の必要性
薬物問題は様々な分野にまたがっており、どの国でも一つの省庁のみで扱うことは不可能である。具体的には、保健医療、警察、司法、教育、農業、労働等といった分野の間の密接な協力が不可欠である。このことから、関連省庁が薬物問題に対処するために連携を取れる体制を作り上げることが必要とされる。

また、薬物問題はある一国において解決したようにみえても、近隣諸国で問題が残っていると、すぐにまた再発する傾向が強いこと(バルーン効果)が指摘されている。このことから薬物問題の根本的な解決には、国家間の協調による地域レベルでの取り組みが必要である。UNDCPの支援により1993年に始まった東南アジア六カ国政府による地域戦略が今後、さらなる問題解決に貢献することを期待したい。

(かなもりしょうご/国連薬物統制計画アソシエート・エキスパート、開発スクール第8期生)

*本文は国連薬物統制計画の公式な見解を示すものではない。また、引用されている国連の文書の和訳は公式のものではない。

表1 代表的な違法薬物の推定年間乱用者数および生産過程
種類 薬物名 世界の推定年間乱用者数(1998-2001年) 生産方法および主な生産拠点
大麻型 大麻(マリファナ) 1億4740万人 世界中のほぼあらゆる場所で栽培される。過去10年間に120カ国が国内における大麻の栽培を報告している。
アンフェタミン型 覚せい剤 3340万人 原料であるエフェドリン(喘息薬)から合成される。近年、東アジア、東南アジア地域での押収量が増加しているが、生産地を特定するのは困難である。
エクスタシー 700万人 化学合成により生産される。大半がヨーロッパ原産であるとされている。
オピオイド型麻薬 アヘン 1290万人(うちヘロインが920万人) 高地で栽培されるケシから抽出される。世界の不正アヘンの90%以上はアフガニスタン、ミャンマーで生産されている。
ヘロイン   アヘンに含まれる成分を精製し、化学変化させることによって得られる。
コカイン型 コカイン 1340万人 コカ葉から抽出される。世界のコカ葉栽培の98%以上はコロンビア、ペルーおよびボリビアのアンデス三国に集中している。
(出所)UN/ODCCP, Global Illicit Drug Trends 2002, New York, United Nations Publication, 2002. (http://www.odccp.org/global_illicit_drug_trends.html)
(注)推定乱用者数の合計が本文中の1億8500万人と一致しないのは、複数の薬物を使用している人が存在するためである。


表2 薬物問題に関する国連特別総会(1998年)において採択された重点目標
・すべての参加国は、違法薬物に関する国内戦略を策定し、2003年までに実施する。

・すべての参加国は2008年までに、違法薬物の消費削減における「目に見える測定可能な成果」(目安としては50%の削減)を挙げるよう努力する。

・違法生産が行われている国々は2008年までに生産を完全に根絶する。同時に、違法麻薬栽培問題の解決策として開発を推進する。