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海外研究員レポート

南北首脳会談および米朝首脳会談後の日朝経済関係

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050604

2018年10月

2018年4月27日に板門店で開催された南北首脳会談と6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談は、朝鮮半島での南北の和解と核問題の解決に向けた工程の開始を宣言したものである。南北の和解と核問題の解決は日本の安全保障上有益なものであり、日本政府がこの工程の進展に協力するのは当然のことである。南北首脳会談で板門店宣言が採択されたことに関してすぐに安倍総理はこれを「称賛」すると発表した。米朝首脳会談で共同声明が採択されたことに関してもすぐに安倍総理は「トランプ大統領のリーダーシップと努力」に対する「心からの敬意」と、「北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的な解決に向けた一歩」としての支持を表明した。また、安倍総理はこれらの会談の開催前に、韓国の文在寅大統領とアメリカのトランプ大統領に、日本で日朝間の最大の懸念事項である拉致問題の解決に関して助力を要請し、日朝交渉の再開に向けた準備をすすめることになった。

日本社会にとって拉致問題は日朝間の最大の懸念事項であるが、この問題に解決の目途がつけば、次の問題として経済問題が浮上することになる。本報告では日朝間の経済問題の内容、その解決としての経済協力の在り方を明らかにしたうえで、経済協力の分野に関する問題を議論する。

写真:共同声明に調印する米朝首脳

共同声明に調印する米朝首脳(2018年6月12日)
日朝間の経済問題

日朝間には過去の日本の朝鮮に対する植民地支配に関連した経済問題がある。1990年代に始まった日朝国交正常化交渉の過程で、朝鮮側は「戦勝国としての賠償」あるいは「補償」を求めたが、2002年9月17日の小泉・金正日会談による日朝平壌宣言で、日朝双方が互いの「請求権」を放棄したうえで経済協力を実施するという方式で解決することが決められた。しかし、その後日朝国交正常化交渉は中断され、経済協力に関する交渉も進められていない。

日朝間では国交正常化交渉が始まる前からすでに貿易が行われていた。しかし、2006年に日本政府が経済制裁を発動したことで日朝間の貿易は今日往復ゼロの状態である。

経済制裁が発動される前にも日朝間の貿易には以下のような問題が存在した。第1に、日本政府が朝鮮に対して途上国に対する特恵関税を適用してこなかったことである。第2に、1970年代中盤に朝鮮側の日本側に対する貿易代金が未払いになるという問題が発生したことから、1980年代初めまでは債務に関するリスケジュールなどがなされてきたが、その後、支払いも途切れ、リスケジュールも行われていない状態である。朝鮮側の企業は信用を失っており、また、日本側の企業は、在日朝鮮人企業を含めて、貿易をしようにも貿易保険をかけることができなくなっている。

経済協力のあり方

小泉・金正日会談による日朝平壌宣言(2002年9月17日)での合意事項の一つである日朝間の経済協力は、その内容に関する交渉すら進められていないのが現状である。その交渉に入るには、経済制裁の解除が前提になるが、これは米朝首脳会談で合意された朝鮮の非核化がどれほど進行するかにかかっている。

経済制裁の解除が実現したとしても、日朝間の外務当局の会談で日本側は拉致問題に関する話し合いを優先してきたため、拉致問題に関する解決の目途がつくことが経済協力の内容を決めるための事実上の前提条件になっている。

こうした条件をクリヤーして経済協力に関する交渉に入ることができたとすれば、まず経済協力の規模が問題になるであろう。経済協力の規模に関して、その基準となるのが、1965年の日韓国交正常化に伴う経済協力の規模である。日韓請求権・経済協力協定により日本から韓国には有償無償あわせて1966年から75年までの間に5億ドルの資金が供与された。また、民間信用供与も1971年までに5.5億ドルが供与された。こうして韓国に対しては官民あわせて10.5億ドルの資金が供与されたわけであるが、これは今日の貨幣の価値に換算すると30億ドルほどになると考えられる。日朝間の場合は、これに国交正常化にかかった時間などの要素を勘案する必要があるであろう。

貿易代金未払い問題に関しては基本的に官民合わせた資金供与による再投資による解決が望まれる。また、同時に日本政府は朝鮮に対して途上国としての特恵関税を適用する措置をとり、貿易取引の促進を図る必要がある。

経済協力の分野

朝鮮に対する経済協力に関して、朝鮮がその輸出構造が一次産品に依存しているということに見られるように途上国であることとともに、建国以来労働力が不足している国であるという点を考慮しなくてはならない。低賃金に依存した労働集約的な輸出産業を振興させることはすぐに限界が来る可能性が高いとみるべきである。

一方朝鮮で基幹産業とされるのは、石炭、電力などの動力、それから金属といった素材産業である。とくに素材産業は日本の産業との関係もあり、すんなりと投資できるものではない。また、しばしば話題になるレアアースなどの資源開発も十分な調査を経て進められるべきものである。したがって、現時点で日朝間の経済協力に関して有望な分野というものをあげることはできない。経済協力の内容については、朝鮮側から提示される個別案件の詳細な検討が必要であり、また、それ以前に朝鮮の産業に関する経済地理的な調査研究が必要とされている段階である。

著者プロフィール

中川雅彦(なかがわまさひこ)。アジア経済研究所在ソウル海外調査員。主な著作は『朝鮮社会主義経済の理想と現実――朝鮮民主主義人民共和国における産業構造と経済管理――』アジア経済研究所(2011年)等。

書籍:研究双書

書籍:国際制裁と朝鮮社会主義経済

写真の出典

  • 共同声明に調印する米朝首脳(2018年6月12日):White House [Public domain], via Wikimedia Commons.