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海外研究員レポート

オーストラリア首相交代劇の顛末――突然のターンブル降ろし

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050599

岡田 雅浩

2018年10月

オーストラリアの与党・自由党は8月24日、臨時の議員総会を開き、モリソン財務相(50歳)を新党首(新首相)に選んだ。モリソン首相は2010年以降6人目の首相であり、過去5人の首相はみな任期を全うできず、短命に終わっている。かつての日本もそうだったが、首相が頻繁に変わるせいもあり、オーストラリアでも政治に対する不信感は強い(ただ、同時に期待感も強いともいわれる)1。今年発表されたエデルマン信頼バロメーターによると、2017年時点で、政府を信頼していると答えたオーストラリア人は国民の35%にすぎない(1年前と比べて2ポイント下落。ちなみに日本は1年前と変わらず37%、アメリカは14ポイント減の33%)2。OECDの調査によると2016年の信頼度は、オーストラリアが45%、日本が36%、アメリカが30%とされている3

この数日間ごたごたした首相交代劇については、マスコミも国民もなぜ起きたのかよく分からないというのが本音のようだ。ターンブル前首相(63歳)の中道寄りの政策(減税政策、エネルギー・環境政策、移民政策等)が党内保守派の不興を買っていたというのは確かだが、それに勝るとも劣らず、政治家の党内抗争(過去の因縁や保守派と中道派の亀裂)が主な引き金というのが、大方の見方のようだ。ターンブル首相は会見で、いじめとか反乱といったような言葉を連発し、党内紛争のドロドロした部分をさらけ出した。  

過去を振り返ると、ターンブル氏は2015年9月、前任者のアボット氏に党首選を挑んで勝利し、首相に就任した(このアボット降ろしも造反と非難されている)。任期中は、経済は比較的好調で、またこれまでどの政権も実現できなかった同性婚法案を成立させたが、温暖化対策を含むエネルギー政策や法人税減税の修正を巡り与党内から反発を受けていた。支持率はどちらかというと低位安定し、労働党との人気比較では常に労働党よりも若干低かった。

8月21日、自由党内で党首交代を求める声が上がり、党首選が行われた。結果は48対35で現職のターンブル首相が造反を主導したダットン議員(47歳)を退けた。しかし、この13票差が意外に僅差とみなされ、多数派工作をしたのか、反対派は過半数がターンブル首相の続投に反対していると主張し、8月23日には再び党会合を開くよう要求した。この騒ぎの中、現政権に見切りをつけた7人の現職閣僚が辞任を表明し、ターンブル首相に辞任を促した。

この辞任要求に対して、再投票を避けたいターンブル首相は、所属議員の過半数の署名(43人)を翌24日の正午までに集めること、ならびにダットン議員の議員資格に問題がないか確認することを条件に、翌日正午に党大会を開催することに同意した。

1つ目の条件の狙いは、首相を支持しない議員に対し、再投票をするか否かが決まる前に名乗らせることにあった。結果的に首相続投となれば、造反議員は報復されるおそれがあるから、名を明かしたうえでの造反にはリスクが伴う。このリスクをおそれて議員が造反を思いとどまることを首相は期待したのだろう。

2つ目の条件は、造反の首謀者であるダットン議員を狙い撃ちしたものである。ダットン氏の家族が連邦政府の補助を受ける保育所に関与しており、これが議員資格要件に抵触する可能性があると労働党から指摘があった。これを受けて首相は、ダットン氏が議員資格要件を満たしているという認定を法務次官から取り、同氏が首相候補たり得ると確認することを、再投票の条件としたのである。

くわえてターンブル首相は、下院で与党の保守連合の議席が半数プラス1議席しかない現状を念頭に、党の信任を得られなければ議員を辞職すると宣言した。自身から党首の座を奪えば、与党の立場が危うくなるという状況をつくりだしたのである。

23日夜の時点では、40名までは署名が集まりそうだが、それ以上は分からない、また法務次官の判断も予断を許さないと報道されていた。だが翌日の昼までには、法務次官が(最終判断は最高裁の判断になるものの)ダットン氏の議員資格に問題はなさそうだとの認識を示したこと、そして党所属連邦議員(85人)の過半にあたる43人の署名が集まったことを受け、臨時の議員会合が開催されることになった。

不信任案には45人の議員が賛成し、党首選が実施されることになった。立候補したのは、反旗を翻したダットン議員と、ターンブル氏支持派のモリソン財務相、ビショップ外相(女性でかつ最も人気の高い政治家)の3名で、最初の投票でビショップ外相が落選した。決選投票では、45票対40票でモリソン財務相が当選した。自身の当選を見込んで再投票を主導したダットン議員は、43名の署名を集めたものの、結局党首選で敗れてしまったのである。結果的には、現在の財政政策や環境政策を担っていたターンブル首相支持派の現役閣僚が図らずも党首と副党首に選出され、大騒ぎをした割には現状とそれほど変わらない指導部に落ち着いた。

このごたごたで政治不信はさらに深まってしまったかもしれない。引退を表明したターンブル前首相の議席をめぐる補欠選挙(10月20日の予定)で、自由党は再び議席を確保できるのか。来年の5月頃に実施予定の下院総選挙では、労働党が政権を奪還するのだろうか。オーストラリアの政治は、今後さらに流動化が進む可能性がある。

(2018年8月31日脱稿)

オーストラリアの国章

オーストラリアの国章(Public domain, via Wikimedia Commons)
  1. Rebecca Huntley, Still Lucky: Why You Should Feel Optimistic about Australia and Its People, Hawthorn, Australia: Viking, 2017.
  2. 2018 Edelman Trust Barometer Global Report.(PDFファイル)
  3. OECD Government at a Glance 2017.(Excelファイル)