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海外研究員レポート

雄安新区訪問記――自動運転、無人スーパー、そして巨大新空港

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050588

岩永 正嗣1

2018年9月

雄安新区とは
概要

雄安新区は、深圳経済特区や上海浦東地区に続き、中国習近平国家主席が自ら推進する新都市開発プロジェクトである。

雄安新区は北京市の南南西、天津とほぼ正三角形を成す点に位置し、北京、天津それぞれから105キロメートルの距離にある。河北省保定市の雄県、容城県、安新県の3県及び周辺部分の区域にあり、保定市中心部からは30キロメートル、北京新空港からは55キロメートルである。新区区域内には河北省最大の湖で、AAAAA級の観光地ともされている白洋淀を有する。

北京と雄安新区を結ぶ高速道路と高速鉄道は新たに建設される予定である。北京から新空港、雄安新区を結ぶ高速鉄道は2020年に開通予定である。  

将来の計画人口は200~250万人である。始動区域面積は100平方キロメートル(うち本格始動地区20~30平方キロメートル)、中期発展区域面積は200平方キロメートル、長期コントロール面積は1770平方キロメートルとされる。深圳経済特区が1991平方キロメートル、上海浦東新区が1210平方キロメートルであるから、将来的にはこれらに匹敵する規模が目されていることになる。

雄安新区建設計画は、2017年4月1日に突如公表された2。2018年4月21日には後述の雄安新区計画綱要(マスタープラン)が批准、公表されている。今後は、2020年までに基幹交通網、初期地区基礎インフラ施設、産業配置枠組の基本的部分が建設され、2022年までに初期地区基礎インフラの建設、核心地区の建設が完成する計画である。

目的と任務

新区は、以下のような目的で計画された。(1)北京の非首都機能の集中的な分散、(2)人口経済密集地区の優良な開発新モデルの探索、(3)京津冀(北京・天津・河北)の都市配置と空間構造の調整・改善、(4)イノベーションの駆動による新たな発展エンジンの育成。

そのために、7つの重大な任務を背負うとされる。(1)環境にやさしいスマートシティの建設、(2)美しい生態環境の築造、(3)ハイエンド・ハイテク新産業の発展、(4)質の高い公共サービスの提供、(5)便利で効率の良い交通網、環境にやさしい交通システムの構築、(6)市場の活性化のための構造的・制度的改革の推進、(7)対外開放の強化による外国との連携の新たなプラットフォームの構築。

雄安新区計画綱要

2018年4月21日、雄安新区計画綱要が党中央・国務院によって批准された。綱要は全10章で構成されている。(1)総論、(2)科学的・合理的空間配置の構築、(3)新時代の都市景観の形成、(4)優美で自然な生態環境の創造、(5)ハイエンド・ハイテク産業の発展、(6)優良な共有公共サービスの提供、(7)スピーディーで高効率な交通網の構築、(8)グリーンなスマート・インテリジェント都市の建設、(9)近代化された都市安全システムの構築、(10)計画の秩序ある・有効な実施。計画の期限は2035年までであり、あわせて今世紀中葉の発展未来図を展望するとされている。

計画対象地域には雄県、容城県、安新県(白洋淀水域を含む)と、任丘市鄚州镇、苟各庄镇、七間房郷、高陽県龍化郷を含み、計画面積は1770平方キロメートルである。一定の区域を始動地区として先行開発し、始動地区の一定の範囲に本格始動区を計画・建設する。始動地区は容城、安新両県の交わる区域とし、これを雄安新区の中心部とする。また、雄県、容城(現状都市の質の向上・拡大)、安新県城(現状都市の質の向上)、寨里、昝岗(建設)の5つのブロックを外周に建設し、始動地区との間に緑地隔離帯を建設する。また、特色ある小都市、美しい農村を若干建設し、大規模な不動産開発は厳に禁止する。

本格始動区は20~30平方キロメートルとし、北京の非首都機能分散を受け入れ、優良な公共サービスを提供するとともに、ビッグデータ、人工知能、バイオテクノロジー、現代金融等のイノベーション型やモデル型の重点プロジェクトを集積させる。

新区計画エリアの状況

雄安新区の予定地とされている3つの県は、合計で面積が1577平方キロメートル、人口約100万人である。主な産業は、農業、又は伝統的な工業(紙・ビニール包装、アパレル、おもちゃ、機械、自動車部品、段ボール、靴製造、金属加工)及びサービス業(観光など)である。

近時、最先端技術を用いたモデル建設プロジェクトである市民サービスセンターの建築と大規模な植樹活動が進められてきた。

雄安新区市民サービスセンター訪問記

2018年8月17日、雄安新区市民服務中心(市民サービスセンター)を訪問した。

北京市内から同センターまでは約140キロメートルあり、高速道路を順調に飛ばして1時間45分かかる。センターには一般車両は入れず、3キロメートル離れた駐車場からシャトルバス(電気自動車)に乗って移動することとなる3。  

同センターは、3カ月前にオープンした4。元々畑と草地であったところ、管理委員会や計画展示場などの各種施設が整い、内部も一定程度埋まり始めた状況であった。夏休みシーズンでもあり、多くの観光客が来場していた。今年初めまでは、雄安を訪れても新区を感じさせるものは看板程度であったといわれるが、本センター開業により、いよいよ内外に対するシンボリックな受け皿が登場したといえる。  

総建築面積9.96万平方メートルの敷地には、計画展示館、行政サービス館、会議施設、商業施設、住宅などからなる低層のビルが整然と並び、緑地も手入れされている。「グリーン、現代、スマート」を基本理念とし、例えば、緑地やアスファルトは「海綿都市(スポンジ都市)」理念の下、雨水を浸透させて循環させるなどの仕組みが施されている。  

園区内に入って、最初に目に入ってきたのは、計画展示館の建物である。しかし、現時点では一般には公開されておらず、指導者や視察団などにのみ利用されているとのことであった。

写真:マップ

右下のQRコードから電子版マップにアクセス可能
自動運転システム「アポロ」

計画展示館の隣に位置する駐車場には、奥には電気自動車が整然と並び、手前に自動運転の小型バスとレーダーを乗せたセダン数台が並んでいた。百度(バイドゥ)の自動運転システム「アポロ」である5

「apollo」の文字のオブジェのある建物は行政サービス館である。いわゆるワンストップサービスの提供の場であり、カウンターが並ぶ。ただし、現在ここには地元企業以外は一般の企業は投資できず、域外への投資についてはハイテク、新エネルギーなどの企業に限られるとのことであった。

写真:行政サービス館外ではアポロとのタイアップを強調

行政サービス館外ではアポロとのタイアップを強調

写真:ワンストップサービスの窓口カウンター

ワンストップサービスの窓口カウンター

説明してくれたボランティアによると、当地の自動運転には小型バス、セダン、無人販売車、清掃車の4種類があるとのことであった。  

小型バスには、百度のシャツを着たスタッフなどが乗車していた。時速20キロメートル前後のゆっくりしたスピードで走行していた。セダンも2台程度が実際に走行していた。道路には「自動運転専用車道」の文字があった。必ずしも技術のレベルは高くないと、ボランティアは謙遜気味に言う。

写真:小型自動運転電気バスの全景

小型自動運転電気バスの全景(乗降口を開いた状態) 乗車定員は10名程度か

写真:自動運転セダン実験風景

自動運転セダン実験風景

写真:自動運転専用車道

自動運転専用車道

無人販売車は、白くやや大型のNEOLIX(新石器)と、赤くやや小型のジンドン(京東)X事業部の宅配車が多数あった。人と同じか少し早いくらいのスピードで車道や歩道を走行しており、タブレット端末を持ったスタッフが徒歩或いはセグウェイでその後を追っていた。大型のNEOLIXは車道を直線的に進み、小型のジンドンはよたよたとした感じで歩道にも上がっていた。

写真:走行中のNEOLIX

走行中のNEOLIX 実験スタッフがセグウェイで追従している

写真:ジンドンの移動式宅配ボックス

ジンドンの移動式宅配ボックスは中関村でも実験が始まっている 携帯からの操作で開閉可能

さらに、これらよりも小型の清掃車もブラシを回しながら(やや路面から浮いており、掃除になっていないのではないかと思われた)スタッフ1人を引き連れて走っていた。

写真:自動運転の清掃車

自動運転の清掃車
無人スーパー

園区奥の商業地区には、中信書店、サブウェイ、菜鳥駅站(宅配)、LEFIT(24時間フィットネス)などの数店が入居していた。中でも賑わっていたのがジンドンの無人スーパーであった。  

他の無人スーパー・コンビニと同様であると思われるが、入り口付近で説明のパネルに従ってQRコードを読み込み、インストールされたアプリから自分の正面からの顔認証のための写真を撮影し、次に携帯番号を打ち込む。SMSで送られてくる番号、さらには6ケタの口座暗証番号を打ち込むと登録が完了する。自分用のQRコードがスマホ上に表示されるので、これを入口の改札機のようなところでかざし、正面のカメラに自分の顔を向けるとゲートが開き入店が可能になる。認証には若干の時間がかかり、瞬時に行われるわけではない。

写真:ジンドンの無人スーパー

ジンドンの無人スーパー

写真:無人スーパー入口

無人スーパー入口 改札にスマホのQRコードをかざし、正面のカメラにて顔認証

写真:店内の様子

店内の様子

商品は飲料、菓子、カップ麺などがあった。試しに買ったペットボトル飲料のふたの部分には、読み取りのための回路付のシールが貼られていた。

写真:読み取りのための回路付のシール

読み取りのための回路付のシール

三方にある出口は2段階になっている。最初のラインに立つと商品の情報が読み取られる。次に進むと正面に大きなQRコードが映し出され、これをスマホで読み込むと金額が表示され、手元で支払いの手続きを行う。支払が終了するとゲートが開き、外に出られる。  

何のことはない、スマホでの操作自体は日頃スーパーやコンビニで行っている手順と変わりはなく、レジで店員が商品情報をバーコードで読み取る作業がないだけである。客にとっては、顔認証による出入りのプロセスなど面倒なだけで、メリットはあまり感じられない。入退場の管理にあたるスタッフが通常の店舗よりむしろ多い状態であるのは、新たなシステム故やむを得ない。だが、陳列には人手が必要であるほか、通常の店舗では不要のシールの貼付け作業が余計に発生しており、バーコードのように最初から商品に印刷されているようになってこなければ、むしろ手間であろう。

所感

シンプルなデザインでやや無機的な感じもする建物の間の路上を自動運転の車が行きかう状況は、未来都市を感じさせる。1985年のつくば科学万博のコンパクト版のような感じでもあり、高揚感を覚える。しかし、少し冷静になってみると、整然としたハコものが中心であり、今のところ自動運転と無人スーパー以外にこれといったものはないともいえる。  

昼前であったが、帰りの駐車場までのシャトルバスは、多くの観光客ですし詰め状態であった。

北京新空港

北京への帰路、北京と雄安新区の中ほど、北京から約50キロメートルの地点に建設中の新空港の現場に立ち寄った。トウモロコシ畑と集落の間の狭い土の道をトラックやダンプが行き交っているなかを走ると、広大な工事現場に建設中の巨大なターミナルビルが姿を現す。周りに比較するものがなく、大きさを実感しにくいが、よく目を凝らすと屋根の上で働く人々が蟻のように小さく見える。上から見れば6本の腕を持つヒトデのような形であるはずのそれぞれの腕には、さらにいくつもの巨大な搭乗口が突き出している。ターミナル全体の主な構造は既に出来上がっているが、周囲は泥だらけの荒れ地であり、来年10月に試験運行というが本当に間に合うのかとも思わされる。とにかく広くて大きい。

写真:新空港の建設現場

新空港の建設現場
雄安新区、新空港と北京南方の変化は著しい。数カ月もすれば、また全く違った姿になっているだろう。時々足を運ぶ必要を感じつつ、再び畑や集落の間の狭い未舗装路を走り、北京へ戻る高速道路に向かった。

写真の出典

  • すべて筆者撮影
  1. 日中経済協会北京事務所長。本レポート作成に当たっては、現地に同行した同所澤津直也所長代理の協力を得た。また、各種の情報を提供いただいた在中国日本大使館平山翔吾書記官に感謝申し上げる。
  2. その前に都市開発計画を匂わせる動きはいくつかみられた。
  3. 2018年4月28日、服務中心園区への燃料油車の来場が禁止された。現場では実質的に一般車両は入れていなかった。
  4. 2018年3月29日に基本建設が完成した。
  5. バイドゥが2017年4月19日に自動車業界及び自動運転分野の協力パートナー企業に対して提供したソフトウェアプラットフォーム。中国語表記では「阿波羅」。