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海外研究員レポート

中国の鉄鋼過剰生産能力対策――嘉峪関市・酒泉鋼鉄の例

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049821

岩永 正嗣

2017年11月

鉄鋼城下町・嘉峪関市

10月22日~24日、嘉峪関市を訪問した。社会科学院日本研究所・楊伯江副所長が1年間の出向期間にある機会を捉えての訪問である1

会見した王硯書記、楊副書記等によれば、嘉峪関市は酒鋼と景勝地嘉峪関により発展した都市。面積2,935km2、1958年に酒泉鋼鉄が設立され、1963年に市に昇格。市内に明代・長城の起点「嘉峪関」があり、市の名称とされた。市の人口は30万人と小さいが、昨年のGRPは153億元、1人当たりでは9,300ドルと甘粛省内でも高位にある(都市人口収入は33,000元、農村は15,000元)。

30万人のうち、常住人口(嘉峪関戸籍)は24万人、残る6万人は流動人口2。酒鋼集団の従業員数は約3万人(ピーク時4万人)であるから、関係者家族も含めると、実に1/3は酒鋼関係者であることが示唆される。

写真:市南部の南湖公園・気象塔からみた嘉峪関市街

市南部の南湖公園・気象塔からみた嘉峪関市街  遠景に酒泉鋼鉄

王書記によれば、嘉峪関市には4つの特色がある。

(1)交通至便

嘉峪関空港は甘粛第2の空港で、16便/日が運航。高鉄(新幹線)も発達、国道312号線も貫通。つまり、航空、高鉄、高速が縦横無尽に走っている。北にモンゴル、南に祁連山脈が所在。

(2)固い工業基盤

酒鋼は1958年来の歴史。西部に所在する油田は、1943年に蒋介石が視察。北には著名な酒泉衛星発射センターが所在。また、風力、太陽光発電の自然条件にも恵まれ、大規模な開発。

(3)豊富な観光資源

万里の長城の西の果てに位置し、「関城」など4つの世界遺産が所在。地図でいえば降雨量400mm線上に所在し、北は遊牧民族、南は農耕民族が生活。何千年の歴史で、これら2つの民族が頻繁に争い、秦代に長城が建設され、明代には東は山海関にまで到達。各民族は長城を取り巻く様々な歴史と文化を創出。嘉峪関では、長城とシルクロードの、漢族と外国、そして仏教と儒教の文化がそれぞれ融合した。中国歴史研究において嘉峪関の存在感は大きい。長城の北部にある「黒山」には岩に古代の石刻がある。これまでに発見された153点のうちから66種類の動物を発見。このような絵には5000年以上の歴史が反映されている。石刻にみられるように、そもそも当地には多くの湖があり、暖かい気候だった。様々な民族がここで生活を営んでいたことが垣間みえる。「魏晋墓」には、壁画には昔の生活様式が描かれている。こうした観光資源が文化の特徴を反映。

(4)優れた住環境

嘉峪関は酒鋼のために作られ、砂漠から住民の努力で緑いっぱいの都市に育った。

酒泉鋼鉄(集団)有限責任公司(JISCO)
1. 関連マクロデータ

日本鉄鋼連盟北京事務所及び新日鉄住金北京事務所によれば、生産量や収益の状況は以下のとおりであり、酒泉鋼鉄の生産量が甘粛省の粗鋼生産の大部分を占めることが分かる。

(1)甘粛省の粗鋼生産規模は2015年852.6万トン、16年628.4万トン、17年1~8月357.1万トン(年率換算535万トン)。中国政府による2020年までの鉄鋼生産能力削減目標は300万トン、うち16年で144万トンの削減実績。中国政府は本年「地条鋼」と呼ばれる粗放的な小規模製鉄業者の徹底した淘汰を進めたところ、甘粛省においては192.5万トン、15社の地条鋼ミルを淘汰。

(2)酒泉鋼鉄の粗鋼生産量は、2015年768.5万トン、16年550万トン、17年1~8月328.2万トン(年率換算492万トン)。

(3)2015年、16年1~3月まで赤字、その後黒字転換、直近17年1~6月は3億5千万元の黒字まで急回復。

2. 酒泉鋼鉄概要

楊副書記によれば、経済を酒鋼に依存する嘉峪関市では、目下転型(構造転換)を推進中。すなわち、酒鋼の転換は、嘉峪関市全体の転換も意味する。目下、現代農業に着眼し、例えばワイン3や酪農製品4も製造するほか、ホテル経営(嘉峪関賓館)、不動産開発など、事業の多角化を推進中。

展示施設によれば、粗鋼生産能力:嘉峪関工場:700万トン/年、蘭州工場:200万トン/年。主力製品:炭素鋼、棒・板などのアルミ製品、厚板・コイルなどのステンレス製品など。1955年に鉄鉱石鉱山発見、58年酒泉鋼鉄創業、62年、66年の一時操業停止の苦難を乗り越え、70年に初の鉄、85年には鋼の生産に成功。

鉄鉱石の自社鉱山(鐘鉄山鉱:市内から78㎞の距離)のほか、市内に石灰石鉱山、新疆に炭鉱なども有する。自社保有の嘉策鉄路は全長459kmで自社鉄道としては国内最長。

2008年北京オリンピックのメインスタジアム(通称「鳥の巣」)の鋼材の65%を受注したほか、青蔵鉄道、三峡ダムなどに納入実績のある西部鉄鋼業界の雄。

中国全国の鉄鋼メーカー600社中、粗鋼生産量で30位の位置付け。

3. 現場視察

(1)ステンレス工場 100万トン/年の大規模工場(うち冷延鋼板60万トン、半製品40万トン)。主に華南(仏山)、華東(無錫)、華北(天津)の代理店に納入。輸出もあるが、代理店を通じての販売であり、具体的輸出先等は生産現場としては把握してない。稼働率98%(ママ)。

(2)溶融亜鉛メッキ工場 生産能力150万トン/年に対し、実質100万トン/年を生産。2009年に運開の同ラインには、新日鉄エンジニアリングの設備が導入されている。対応者によれば、目下「鉄が足りない」ことから生産量は増えていないとのこと。

(3)電解アルミ工場 生産能力、生産実績ともに45万トン/年。1280mに及ぶ新設の工場建屋内には、ピカピカの336基の電解炉が立ち並び、工員数は500名(うち、50名は昨年同社の別セクションから異動してきた)。対応者によれば、目下、生産販売は「絶好調」。 また、王瑋市委副秘書長によれば、アルミは電力多消費産業であるが同工場における電力の多くは風力、太陽光で賄っているとのこと。

写真:炉内

炉内(了解を得て撮影)

写真:果てしなく続く336基の電解炉

果てしなく続く336基の電解炉(了解を得て撮影)

過剰生産能力対策の状況
酒泉鋼鉄・程子建副総経理に最近の経営環境や構造改革の状況を聴くことが出来た。概要以下のとおり。
1. 鉄鋼産業を取り巻く環境

鉄鋼産業を取り巻く環境が変わった。第1に、良い市場環境の整備に取り組んできた。いわゆる供給体制には一定の変化がみられ、生産能力の削減、地条鋼の削減、更には安全水準を満たさない製品の削減によっても市場整備ができた。

もう1つは、自信が回復した。2012~15年までの3年は鉄鋼市場不況だった。原材料価格も下落し、業界全体が鉄鋼産業に対する自信を失った。その結果として、例えば、溶接材料の価格は1,600元/トンまで下がった。2015年以降は市場環境の改善によって自信も回復していった。

以上は、鉄鋼メーカーを取り巻く外部環境。一方、内部環境としては、酒鋼としては、生産規模を一定程度縮小した。2013年の年産量の1,100万トンから2017年の600万トンへ。こうした生産規模の削減によって、赤字を回避した。その際、高炉に投じるコークスや鉄鉱石などの原材料の構成も合理化した。すなわち、これまで輸入してきた豪州、ブラジル、カザフスタン産の鉄鉱石は使わず、当地や周辺で産出した鉄鉱石を使うようにした。これにより、鉄鉱石の品質も、鉄含有量を53~54%から50%に下がり、効率は下がるが、コスト低減につながった。

鉄鋼生産量の下落を受けて、販売範囲の縮小も図った。今までは全国向けだったが、2015年からは、販路を近郊中心とし、甘粛、西寧、銀川、新疆などに向けて販売している。これにより、販売に関わるコストも低下した。

また、内部マネジメントも改革した。例えば、評価制度など。責任を明確化した結果、熱意が上がり、活気が出るなど従業員のモチベーションが向上した。

技術イノベーションには工夫している。鉄鋼業界が困難だった2013年は、技術開発に勤しみ、製品構成を変えた。

2. 人員対策

改革に際しては、人員削減というリストラは行わないよう努力した。ここは、90年代の国有企業改革の教訓に学んだ。当時の改革は人々の生活に大きな影響を及ぼした。経営がうまくいかないのは経営者の責任であり、従業員にその責任を取らせるべきではないし、2015年8月に改革に着手するに当たり従業員達との約束した事項でもある。ここ数年の従業員数は、2万3000人程度で横ばいに推移している。

これまで減少した従業員のうち一部、特に若年層は、自主的に酒鋼から去った。もう一部分は、我々から臨時休暇を与える代わりに社会保障として毎月1,200元を支給し、他所でアルバイトなどをしてもらい、いつでも酒鋼に戻って来られるようにした。若者の離職は2012年から2015年の鉄鋼不況の時期にはさほど深刻ではなく、むしろ昨年以降、経営状況が一番良い時期が多くなっている。その背景には、中国西部においては、沿海部と比べたら医療、教育などの面で格差があることがある。若者は、給料の多寡にかかわらず、こうした生活条件の違いから沿海部等に移る傾向がある。

上述の「1,200元支給対策」も、個人の意思に委ねて強制はしていない。しかも、これは嘉峪関の酒鋼本体の施策ではなく、蘭州にある子会社が打ち出したもの。この保障は企業として支給するもので、その財源は国の補助金ではない。蘭州子会社は生産能力も回復したため、この施策は今月で終了する予定。

余剰人員が乳製品やワイン製造に回るというような配置転換はほとんどない。2015、16年に従業員を広く募集した新設のアルミ工場に異動した者はいる。

3. 過剰生産能力削減政策への対応

(中央政府は過剰生産能力の淘汰を義務付けており、甘粛省については、生産能力を2020年までに300万トン減らさなければならないとされる。統計によれば、昨年は144万トンを削減したとのことだが、今後更なる削減にどう対応していくのか、と尋ねたのに対し)甘粛省の政策に照らし、鉄と鋼は別々に生産能力を削減している。当社は、昨年、鉄100万トン、鋼140万トンの生産能力を削減。残りの鉄と鋼は金昌鉄業という会社が一部の鉄を淘汰し、蘭新鋼鉄が一部の鋼を淘汰した。昨年12月までの総計で一定の任務は完了した。こうして一部は完成したが、酒泉鋼鉄としては、山西省にも子会社があり、その工場は今年一杯で削減したい。

なお、高炉等の設備への対応として、国からは2つの要求を受けている。1つは徹底的に壊すこと、2つ目はそれを使用しないことである。

ただし、後者については、海外への生産設備の移設プロジェクトがある場合に限る。これは70年代、沙鋼にドイツの炉を移転したケースに似ている。酒鋼はこの度100%廃棄の対応を取ることとしており、8~9割は既に廃棄されている5。蘭州の工場については、当初はインドネシアとの協力プロジェクトのため残すこととしていたが、交渉に進展がなく、廃棄の方針に転換し、まもなく壊す予定。海外移転を理由に設備を残すためには、海外との計画合意や契約が無ければならない。しかしながら、かかる合意はそう容易にできるものではない6

以上のように、酒鋼としては、本年までに生産能力の削減が進み、来年以降は基本的に生産能力削減政策の制限を受けることはない。

業況はまずまずであるが、今後も生産設備の拡張の予定はない(「不会的」)。中国は「中国製造2025年」と「鋼材アップグレード」を発布以来、工場内部はこれをガイドラインに生産をしている。規模を増やさず、技術をアップグレードしている。現在の規模の上でいかに技術のアップグレードをするかが重点である。

なお、過剰生産能力削減対策のための国からの補助金は確かに受けているが、この補助金は、全て従業員がほかの仕事に就くための訓練や、契約解除違約金のために使わなければならない。国はその使用範囲を厳格に管理している。訓練した人材は、他社や他の地域でも働けるが、「生産能力削減のために離職する」社員のためにしか使うことはできない。

4. 日本との協力可能性

日本の鉄鋼メーカーがミドル・ハイエンドの生産であるのに対し、酒泉鋼鉄はミドル・ロー。レベル向上のため、日本の鉄鋼メーカーからも学んでいきたい。第1は複合板(バイブレス鋼板)、第2にカラー鋼板、第3にステンレス。

写真の出典

著者撮影。

脚 注


  1. 社会科学院は各地の地方政府等と人事交流を行っており、本出向もその一環。楊副所長は、嘉峪関市党委副書記のポストにて政策研究や改革全面深化指導等を担当。社会科学院から同ポストへの出向は3代目(過去2代は農業研究所からの出向)。
  2. 副市長はじめ市の幹部の一部も、蘭州市等から異動してきた非嘉峪関戸籍住民。また、製造業、サービス業が中心であることを反映し、市の都市戸籍率は93.4%。
  3. 「紫軒」ブランド。
  4. ニュージーランドから5000頭の乳牛を“空輸”し、市郊外の広大な牛舎で飼育。ヨーグルト等を生産。
  5. 高炉については、同社には蘭州の2800立米を含め、合計8本の炉があったが、現在は1本廃棄し7本になっている。
  6. 生産能力削減を進めるため、これまで、中国政府は「設備の海外移転」を進めているとの見方がある一方、そうした見方を否定する声もあった。今回の酒鋼幹部の話から、能力削減の方法として、生産設備の海外移転も含まれることが判明。ただし、海外との具体的な計画や契約があることが前提であり、現実にはかかる選択肢を取ることは容易ではなく、その場合には設備廃棄を選択せざるを得ないこととなっている模様。