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(2020年ミャンマー総選挙) 選挙結果速報――国民民主連盟が再び地滑り的な勝利

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051891

2020年11月

(4,461字)

2020年11月8日に実施されたミャンマー総選挙の結果が、9日から15日にかけて選挙管理委員会から発表された。与党の国民民主連盟(National League for Democracy、以下NLD)は、議席を減らすのではないかという大方の予想を裏切り、前回の2015年総選挙を上回る議席を獲得して、ふたたび地滑り的な勝利を収めた。

連邦議会選挙

連邦議会選挙では、NLDが選挙議席の3分の2のラインを超えて議席を獲得できるかどうかが注目されたが、ふたを開けてみると、NLDが8割を優に超える議席を獲得する結果となった。次期議会においてもNLDは軍人議席を含めた全議席の過半数を単独で占め、政権を維持することができる。

今回の総選挙ではヤカイン州やシャン州の一部地域で選挙が実施されず、実際に選挙が行われたのは上院で全168選挙区のうち161選挙区、下院で全330選挙区のうち315選挙区のみであったため、現行憲法下で実施された過去3回の総選挙のなかでも、争われた議席数のもっとも少ない総選挙となった。合計476議席の政党別内訳は表1のとおりである。

表1 連邦議会選挙の政党別獲得議席数

表1 連邦議会選挙の政党別獲得議席数

(注)1) 前身のモン民族党の獲得議席。2) 前身のカチン州民主党の獲得議席。3) 前身のワ民主党の獲得議席。4) 内訳はリス民族発展党2議席、コーカン民主統一党1議席、国民統一党1議席、無所属3議席。
(出所)選挙管理委員会通知、中西嘉宏・長田紀之「2015年ミャンマー総選挙:国民民主連盟(NLD)の歴史的勝利」IDEスクエア(2016年1月)より筆者作成。

選挙議席の総数が減ったにもかかわらず、NLDは議席数を伸ばし、396議席(選挙実施議席の83.2%、以下同じ)を獲得した。全国的な勝利をおさめたが、とくに管区域では圧倒的な強さをみせ、上院の84議席全部と下院の207議席中204議席を獲得するという完全勝利となった(NLDの地域別議席獲得状況は後述)。

国政の第2党は前回同様、連邦団結発展党(Union Solidarity and Development Party、以下USDP)であったが、議席数は33議席(6.9%)と若干減らした。マンダレー管区域南部のメイッティーラーなど、これまではUSDPが押さえていた選挙区でもNLDに議席を奪われ、管区域(ネーピードーを含む)ではわずかに下院の3議席しか獲得することができなかった。獲得議席の議院別・地方別の内訳は、上院ではシャン州で3議席、カヤー州で2議席、カチン州とカイン州でそれぞれ1議席ずつの合計7議席、下院ではシャン州で15議席、カチン州で5議席、ザガイン管区域、ヤンゴン管区域、ネーピードー連邦直轄地、カヤー州、カイン州、ヤカイン州でそれぞれ1議席ずつの合計26議席であった。

第3党以下はすべて、民族名を冠した少数民族政党となり、それぞれが拠点を置く州のみで議席を獲得した。第3党と第4党は前回と順位が入れ替わり、シャン民族民主連盟(Shan Nationalities League for Democracy)とヤカイン民族党(Arakan National Party)がそれぞれ15議席(3.2%)と8議席(1.7%)を獲得した。シャン民族民主連盟が前回とほぼ同じ水準を維持した一方で、ヤカイン民族党は同党への支持が厚いヤカイン州北部の9郡(上院の7選挙区、下院の9選挙区の合計16選挙区に相当)で選挙が実施されなかったために大幅に議席数を減らした。ヤカイン民族党は州南部のいくつかの選挙区でNLDから議席を奪う一方、旧党首が離党して結成したヤカイン前衛党(Arakan Front Party)に1議席を奪われた。

タアン(パラウン)民族党(Ta’ang [Palaung] National Party)とパオ民族機構(Pao National Organization)は、それぞれ前回と同じく5議席(1.1%)と4議席(0.8%)を、シャン州にある自らの地盤で確実に獲得した。躍進が大きかったのは、5議席(1.1%)ずつを獲得したカヤー州民主党(Kayah State Democratic Party)とモン統一党(Mon Unity Party)である。両者は、2020年総選挙に先立って同一民族名を冠する複数の政党が合併して誕生した新党で、合併戦略が奏功したといえよう。同様に、合併によってできたカチン州人民党(Kachin State People’s Party)とワ民族党(Wa National Party)は、前回総選挙で合併前の前身政党が獲得したのと同じ1議席(0.2%)にとどまった。そのほか、前述のヤカイン前衛党と、カチン州北部の武装勢力が後ろ盾となる新民主党(カチン)というふたつの新党が、それぞれ1議席(0.2%)を獲得した。

NLDの地方別議席獲得状況
NLDが管区域で圧倒的な勝利を収めたことはすでに述べたが、より詳細な地方ごとの議席獲得状況を示すと表2のようになる。

表2 連邦議会選挙のNLDの地方別議席獲得状況

表2 連邦議会選挙のNLDの地方別議席獲得状況

(注)連邦直轄地ネーピードーの8つの下院選挙区はマンダレー管区域に含めて計算してある。また、以下の箇所では、2015年と2020年とで選挙議席数が異なる。2015年総選挙では、ヤカイン州上院12議席、ヤカイン州下院17議席、シャン州下院48議席、よって、州合計は上院84議席、下院116議席、全体合計は上院168議席、下院323議席。
(出所)表1と同じ。

管区域では上院84議席中84議席(100%)、下院207議席中204議席(98.6%)と、NLDは前回以上の議席を獲得した。これは、従来はUSDPが優勢だったマンダレー管区域南部の複数の選挙区を制したことが大きい。

事前の予測では、NLDは州の選挙区で議席を減らすのではないかという見方が強かった。しかし、上院77議席中54議席(70.1%)、下院108議席中54議席(50.0%)と、議席数では前回(上院53議席、下院57議席)から若干減らしたものの、獲得議席の割合では前回を上回る結果となった。議席数が減ったにもかかわらず割合が増えたのは、もともとNLDが弱いヤカイン州北部で選挙が実施されずに選挙議席の総数が減り、NLDの獲得議席割合が大きく出たためである。いずれにせよ、州の選挙区全体としては、大方の予測に反して、NLDが前回とほぼ同水準の成果をおさめたといえよう。

ただし、州別にみると、NLDの獲得議席は増減があった。ヤカイン州では、上記の理由で獲得議席の割合が大きく伸びているようにみえるが、実際には議席数を2つ減らしている。その他の州では、チン州で4議席、シャン州で3議席、カイン州で1議席を増やし、カチン州では前回と同数を維持し、カヤー州とモン州でそれぞれ4議席ずつ減らしている。カヤー州とモン州では、地元の民族政党の合併によってNLDが議席を奪われたようだ。

以上は連邦議会の政党別の獲得議席数から得られた分析だが、より詳細な分析は政党・候補者別の得票数・得票率の発表を待たねばならないだろう。

地方議会選挙

7つの管区域と7つの州の地方議会選挙の結果は、以下のようになった。おおむね連邦議会選挙と同様の結果だったが、州においては、国政に議席を得られなかったより小規模な少数民族政党がそれぞれの本拠地や少数民族留保議席で若干の議席を獲得した。

  • ザガイン管区域議会(選挙議席:76議席)
    NLD:74議席(97.4%)、USDP:2議席(2.6%)
  • マンダレー管区域議会(選挙議席:57議席)
    NLD:57議席(100%)
  • マグウェ管区域議会(選挙議席:51議席)
    NLD:51議席(100%)
  • バゴー管区域議会(選挙議席:57議席)
    NLD:57議席(100%)
  • タニンダーイー管区域議会(選挙議席:21議席)
    NLD:21議席(100%)
  • ヤンゴン管区域議会(選挙議席:92議席)
    NLD:89議席(96.7%)、USDP:2議席(2.2%)、無所属:1議席(1.1%)
  • エーヤーワディー管区域議会(選挙議席:54議席)
    NLD:54議席(100%)
  • カチン州議会(選挙議席:40議席)
    NLD:28議席(70.0%)、USDP:4議席(10.0%)、カチン州人民党:3議席(7.5%)、リス民族発展党:2議席(5.0%)、新民主党(カチン):1議席(2.5%)、シャン民族民主連盟:1議席(2.5%)、無所属:1議席(2.5%)
  • カヤー州議会(選挙議席:15議席)
    NLD:9議席(60.0%)、USDP:3議席(20.0%)、カヤー州民主党:3議席(20.0%)
  • カイン州議会(選挙議席:17議席)
    NLD:13議席(76.5%)、USDP:2議席(11.8%)、カイン人民党:1議席(5.9%)、モン統一党:1議席(5.9%)
  • チン州議会(選挙議席:18議席)
    NLD:16議席(88.9%)、ゾミ民主連盟:1議席(5.6%)、チン民族民主連盟:1議席(5.6%)
  • モン州議会(選挙議席:23議席)
    NLD:17議席(73.9%)、モン統一党:6議席(26.1%)
  • ヤカイン州議会(選挙議席:15議席)
    ヤカイン民族党:7議席(46.7%)、NLD:5議席(33.3%)、ヤカイン前衛党:2議席(13.3%)、USDP:1議席(6.7%)
  • シャン州議会(選挙議席:105議席)
    NLD:33議席(31.4%)、シャン民族民主連盟:26議席(24.8%)、USDP:24議席(22.9%)、タアン(パラウン)民族党:7議席(6.7%)、パオ民族機構:7議席(6.7%)、ラフ民族発展党:2議席(1.9%)、ワ民族党:2議席(1.9%)、カヤン民族党:1議席(1.0%)、シャン民族民主党:1議席(1.0%)、無所属:2議席(1.9%)

以上が選挙結果の速報である。なぜ、大方の予想に反してNLDが前回を上回る地滑り的な勝利をおさめたのか、その要因も含め詳細な分析は次回以降の配信で行うこととする。

写真:選挙当日(2020年11月8日)のヤンゴン市内の投票所で感染対策を講じながら列に並ぶ人々

選挙当日(2020年11月8日)のヤンゴン市内の投票所で感染対策を講じながら列に並ぶ人々。
写真の出典
  • Paingpeace, Myanmar Election 2020 vote station at Sanchaung Township, Yangon (CC BY-SA 4.0).
著者プロフィール

長田紀之(おさだのりゆき) アジア経済研究所地域研究センター研究員。博士(文学)。主な著作に『胎動する国境 英領ビルマの移民問題と都市統治』(山川出版社、2016年)、『東南アジアの歴史』(共著、放送大学教育振興会、2018年)、『ミャンマー2015年総選挙――アウンサンスーチー新政権はいかに誕生したのか』(共著、アジア経済研究所、2016年)がある。

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