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トルコ大統領・国会選挙繰り上げ――「指導者」と政局屋

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050359

2018年4月

2017年4月の憲法改正のための国民投票で集権的大統領制導入を決めたトルコでは1、新制度による大統領・国会同時選挙(本稿では双選挙と称す)が2019年11月に予定されていた。しかし与党公正発展党(AKP)党首でもあるレジェップ・タイップ・エルドアン大統領(現行では議院内閣制の大統領)は2018年4月18日、双選挙を1年半近く繰り上げて6月24日に実施することを発表した。双選挙はなぜ繰り上げられたのか、そして繰り上げは何を意味するのか。本稿は、(1)大統領選挙と国会選挙で別々に働く政治的利害、(2)現在事実上の与党連合を形成する2党の党首の行動様式の違い(「指導者」と政局屋)からこれらの問題を考察する。

迫られた繰り上げ

双選挙繰り上げは、少なくとも形式上はエルドアンが主導したわけではない。2016年7月以降、与党AKPと関係を構築してきた議会第3党のデヴレット・バフチェリ民族主義行動党(MHP)党首が双選挙繰り上げ実施を、2018年4月17日の国会院内会派会議で求めたのがきっかけである。これを受けてエルドアンは同日、与党幹部と緊急会合を開き、(1)自分たちは繰り上げ選挙を望まないが、(2)大統領制導入を実現できたのはバフチェリのおかげであるので選挙繰り上げの根拠を聞く必要がある、(3)両党連合を損ねてはならない、と発言した2。エルドアンは翌日のバフチェリとの約30分の会談で、バフチェリの選挙繰り上げの根拠を認めたうえで、実施日については選挙結果が出るまでの政治的不確実性を最小限にするためにバフチェリが提案した8月よりも可能な限り早い日として6月24日を選んだ。

上述のエルドアンの与党幹部との会合での発言は、その後彼が公に行った双選挙繰り上げ宣言よりも、彼のこれまでの「指導者」的行動や戦略と整合的である。(1)については、エルドアンは2017年を党組織立て直し、2018年を経済実績作り、2019年3月統一地方選挙を試験選挙、11月双選挙を本選挙とする戦略を立てた。統一地方選挙での不調が大統領選挙に反映することを危惧した党幹部が双選挙と統一地方選挙の実施順序逆転などを提案しても、彼は選挙日程変更に一貫して反対してきた。それ以前もエルドアンは繰り上げ総選挙を背信行為と呼び3、2007年以降AKP政権下で選挙は予定通りに行われてきた。(2)と(3)では、エルドアンは新制度下の大統領選挙勝利のためには過半数得票が必要で、そのためにはMHPの支持が不可欠である。バフチェリの双選挙繰り上げ要求を拒否すれば両党連合は崩壊する可能性が高かった。

仮に今回の双選挙繰り上げがエルドアンとバフチェリによる芝居だったとしても、繰り上げを迫る状況はあった。第1に、最近の愛国主義高揚策や経済刺激策にもかかわらず、エルドアン陣営への支持率は2017年4月の国民投票結果(51パーセント)と比べて上がっていない4。第2に、トルコリラ為替相場下落とそれに伴うインフレの進行、財政出動への過度の依存などにより経済の持続的成長が困難になっている。第3に、対外政策では、トルコ軍は(トルコ国内でテロを繰り返してきた)クルディスタン労働者党(PKK)の姉妹組織が中核を占めるシリア民主軍(SDF)の掃討で北イラクのアフリン一帯を制圧することに成功したものの、これ以上の侵攻は、大きな犠牲を伴う可能性が高いうえにSDFの後ろ盾である米国との関係をさらに悪化させることが見込まれる。すなわち、経済政策でも対外政策でもエルドアン陣営の支持率を今後1年半で高める材料は見当たらない。

政局屋

他方、繰り上げが芝居であるか否かにかかわらず、繰り上げ双選挙をバフチェリが仕掛けたと推測させる根拠もある。それは、エルドアンも認めように、大統領制導入とその後の選挙連合をバフチェリが先導したことである5。バフチェリは2016年7月15日に起きたギュレン派によるクーデタ未遂後、国民の愛国心の高揚に乗じてAKP政権支持に舵を切った。まず、ギュレン派や他のテロ組織の脅威を理由に導入された非常事態令を支持、7月21日の国会での非常事態令承認決議でも他の野党が反対したのに対しMHPは賛成した。その後も非常事態令が3カ月ごとに更新されるとこれを支持した。

エルドアンが望んでいた大統領制導入憲法改正には国会議員の5分の3の支持が必要で、与党議席数はこれに足りなかった。世論が大統領制導入の方向に変化したころ6、バフチェリはそれまで大統領制に反対してきたにもかかわらず、党内で議論せずに大統領制導入賛成に転じ7、2016年12月にAKPと憲法改正で合意した。AKPとMHPは共同で憲法改正法案を作成、国会定数5分の3以上の賛成票により国会で成立させたものの同票が3分の2に達さなかったため国民投票が必要となり、2017年4月の国民投票で成立させた8。その後もバフチェリは、2019年11月予定の大統領選挙に、AKPが自党の候補を発表していないにもかかわらず、MHPの候補としてエルドアンを「指名」したのである。

取引き

バフチェリは大統領選挙でのエルドアン支持の見返りをAKPに要求した。それは国会選挙(中選挙区比例代表制)で10パーセント足切り規定がMHPに及ばないようにする措置だった。現行選挙法でも、得票率10パーセントを見込めない小政党が、別の政党の名の下で選挙に参加することは可能である。しかしこのような便法は、自党の名前を出せない政党にとっては、有権者に認知されにくく実質的得票率が下がるので不利だった。このような理由で、10パーセント得票が危ぶまれていたMHPはAKPに選挙連合に合意させたうえ、複数の政党がそれぞれの政党の名のまま選挙連合を組む(そして有権者が個別政党に投票したとしても選挙連合の票として数えられる)ことを可能にする法改正を2018年3月に実現させた。

写真:国会選挙投票用紙:有権者は投票用紙の〇のところにEVET(はい)という印を押す。

国会選挙投票用紙:有権者は投票用紙の〇のところにEVET(はい)という印を押す。

この国会選挙連合はMHPに相対的に有利に働く。MHPはAKPと選挙連合を組むと獲得議席を両党の得票率に完全に比例させて配分することになるため、MHPは現行のドント式議席配分(大政党にやや有利)に比べてより多くの議席を得られる。しかもエルドアンはMHPへの配慮から、AKPに対し(2017年4月憲法改正で実現した)国会定員増分に相当する50議席すべてをMHPに(選挙連合候補者名簿最上位に配置することで)与えることを命じている。

ただしバフチェリが獲得できたのはここまでだった。国会選挙でのMHP優遇は、AKP国会議員の間に不満を植え付けていた。MHPはAKPに2019年3月統一地方選挙のための選挙連合をも求め、2018年1月頃に両党合同委員会が協議を始めていたが9、合意に至らなかったことがエルドアンの発言などから2018年3月に判明している。統一地方選挙が2019年3月に予定通りに実施されて両党間に競争や軋轢が生まれると、それが11月の国会選挙にも尾を引くことをMHPは危惧した10。これらを勘案すると、AKPとMHPの選挙連合が国会選挙連合で成り立ち、統一地方選挙では成り立たないことが確定した2018年3月は、MHPにとって一つの節目だった11

今回の双選挙繰り上げは、それがAKPとMHPとの芝居だったか否かにかかわらず、今のトルコ政治での鍵となる二つの力関係を浮き彫りにした。第1に、与党が大統領選挙で過半数票を得るためには、MHPからの支持と引き換えに国会選挙で獲得できるはずの与党票の一部をMHPに分け与える取引が必要となる。つまりトルコの新たな政治制度では大統領選挙での与党候補の利害と国会選挙での与党の利害の間に少なからぬ齟齬が生まれている。第2に、一般に、「指導者」は戦略を立てて行動し、政局屋は状況により行動する。しかし「指導者」も戦略が行き詰まると、政局屋に引きずられるか、政局屋に転じる。「指導者」が戦略を再構築できるかどうかは、6月の双選挙結果にかかっている。

(2018年4月24日脱稿)

著者プロフィール

間寧(はざまやすし)。ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター 中東研究グループ長。Ph.D. (Political Science). 博士(政治学)。最近の著書に「トルコ:エルドアンのネオポピュリズム」(村上勇介編『「ポピュリズム」の政治学:深まる政治社会の亀裂と権威主義化』国際書院,2018年)、 "Economic and corruption voting in a predominant party system:The case of Turkey," Acta Politica, 53(1), January 2018, 「浸透と排除——トルコにおけるクーデタ未遂とその後」(『アジ研ワールド・トレンド』2017年3月号)など。

書籍:Political Determinants of Income Inequality in Emerging Democracies

書籍:アジ研 ワールド・トレンド

脚注
  1. 導入が決まった大統領制は、二つの点で集権的である。第1に、行政府の長である大統領に立法と司法に関する重要な権限が付与され、三権分立と逆の三権集中が起きている。第2に、大統領が与党党首になれるため、大統領は与党および国会議員に強い統制力を及ぼせる。
  2. http://www.hurriyet.com.tr/yazarlar/abdulkadir-selvi/erdogan-erken-secim-kararini-nasil-aldi-40809719
  3. https://www.sozcu.com.tr/2018/yazarlar/yilmaz-ozdil/erken-secim-2-2357008/
  4. http://t24.com.tr/haber/piar-arastirma-bu-pazar-secim-olsa-erdogana-oy-veririm-diyenlerin-orani-yuzde-30,597627
  5. 政局の先を見越したバフチェリの行動は、過去から一貫している。1999年発足の3党連立政権の第3与党でありながら政権の人気が低下したと見るや2002年に総選挙繰り上げを求めて連立政権を崩壊させた。2015年6月総選挙で与党過半数割れ後に野党第1党が示した連立政権提案を拒否して11月の再選挙に道を開いた。ただしその行動様式は、個人的性格よりは中小政党としての性格に起因すると考えられる。
  6. A&Gの行った世論調査は、大統領制支持が反対を上回ったことを示した。2016年6月調査では賛成が37.4%、反対が42.5%、意見無しが20.1%だったのに対し、10月調査では賛成が45.1%、反対が40.5%、意見無しが14.4%と逆転した。
  7. その理由は、エルドアンが現行憲法の定めた大統領の政治的中立規定を守っていない現実があるため、憲法を現実に合わせるべきというものだった。
  8. しかし国民投票での賛成票が51%と薄氷の結果であったのは、MHP支持者の7割が反対票を投じたことによる。http://www.ipsos.com.tr/node/1174.
  9. http://www.cumhuriyet.com.tr/haber/siyaset/912557/Yerele_ittifak_hamlesi..._Belediyeler__sekillendirilecek_.html
  10. http://www.hurriyet.com.tr/gundem/son-dakika-bahceliden-erken-secim-mesaji-40807547
  11. MHPから除名された国会議員たちが結党した善良党(İP)への世論支持の高まりも大きな理由と考えられる。Metropollによる2018年3月の世論調査によると、MHPからİPへ4-4.5パーセントポイントの票の純移動が見込まれる。これに対し、AKPからİPへの票の純移動は0.5パーセントポイントに過ぎない。http://www.diken.com.tr/metropollun-sahibi-sencar-aksener-akpden-henuz-yarim-puan-oy-kopariyor/
写真の出典
  • By Maurice Flesier [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], from Wikimedia Commons.