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トルコの養子縁組制度

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049666

2017年3月

本報告では、トルコにおける要保護児童の社会的養護の施策のひとつである養子縁組について、制度の概要を示し、実践状況を紹介する。

1 養子縁組の合法化

オスマン帝国時代は、イスラム法にもとづき養子縁組は禁じられていた。イスラムにおいては個人の出自を守るために血縁関係が重視され、正式な結婚以外の子どもは家族とされない。捨て子や孤児を引き取り、養育することは宗教的な徳とされて推奨されるが、養育される子は生物学的な父の子であり、養育者との関係性は限定的なものにとどまる。養育される子には遺産の相続権が認められず、養育者の姓を名乗ることができない。養育される子と養育者は、親子関係がないとされるため、結婚が認められる。

オスマン帝国解体後、独立戦争を経て1923年に成立したトルコ共和国では、世俗化改革が進められて、イスラムの諸制度は廃止された。1926年に制定された新民法は、裁判所から許可を得れば、子のいない35歳以上のもの(たち)は18歳以上年齢の離れた子と養子縁組できると定めた。養子は養親の人口登録簿に登録され、養親の姓を名乗るとされた(Özbay 1999a; 1999b)。

新しい民法はスイス民法を範としたが、養子縁組規定にはイスラム法の要素が部分的に引き継がれた。先に述べたようにイスラム法は養子縁組による親子関係の形成を認めないため、養子と養親の結婚を禁じていない。これにたいして民法は、養子と養親の結婚を禁じる一方、養子縁組を解消すれば結婚を可能とした。養子と養親以外の家族成員の結婚も認められた。

また、イスラム法では孤児や捨て子を引き取り養育することが推奨されるが、養育される子には養育者の遺産の相続権はない。これにたいして民法は、実親からの相続権を認め、養親からの相続権についてはこれを認める一方、養子縁組の契約に先立って養子に相続人からはずす契約を結ぶことができるとした(Özbay 1999a; 1999b)。

民法はこのようにイスラム法との調和をはかろうとするものであった。だがトルコの宗教界はこれを十分とせず、トルコ国内の宗務を担う宗務庁は1996年、養子について、養親の配偶者にはなれるが、養親の相続人にはなれないとするファトワー(宗教意見)を出した。そのうえで、イスラムにおいては孤児を引き取り養育することは徳であるが、養子縁組は認められていないことを強調した。養子と養親の結婚を認めるこのファトワーは、世論の強い反発を招き、裁判所の決定により取り消された(Özbay 1999a; 1999b)。

2 養子縁組制度の概要

現行の養子縁組制度の概要は以下のとおりである1

  • 根拠となる法

    養子縁組制度は、民法305~320条、ハーグ国際養子条約(Convention on Protection of Children and Co-operation in Respect of Intercountry Adoption)2の批准にff Intercountry Adoptionかかる法、「子どもの養子縁組における仲介にかんする定款」(Küçüklerin Evlat Edinmesinde Aracılık Faaliyetlerinn Yürütülmesine İlişkin Tüzük)、および関連する通達などによって規定されている。

  • 養子縁組の方法

    要保護児童の養子縁組と、当事者間の合意による養子縁組がある。

  • 所轄機関

    トルコ国内に居住するトルコ国民による養子縁組は、家族社会政策省児童サービス局(Aile ve Sosyal Politikalar Bakanlığı Çocuk Hizmetleri Genel Müdürlüğü)、国際養子については、家族社会政策省児童サービス局と当該国の養子縁組所轄機関が所轄する。

  • 子どもとの養子縁組の条件

    養親になるには、養子となるものとの年齢差が18歳以上40歳以下でなければならない。子の年齢は定められていない。

    実親が継続して判断能力を欠く場合、実親が誰であるか不明か行方不明である場合、実親から子への虐待がある場合をのぞき、実親が子を養子縁組させることを承諾することが必要である。子に物心がある場合は、子の承諾も求められる。

    夫婦で養親になる場合、婚姻期間が5年以上か、夫婦ともに30歳以上でなければならない。

    独身者も30歳以上であれば、養親になることができる。ただし複数の独身者が共同して養子を迎えることはできない。

    配偶者の連れ子との養子縁組は、婚姻期間が2年以上であり、かつ養親になるものが30歳以上であることが条件である。

    配偶者に判断能力がないか、二年以上所在が不明であるか、裁判所の決定により二年以上配偶者と別居しており共同で養子縁組できない場合は、夫婦の一方が単独で養子縁組をすることができる。

  • 成年および被後見人との養子縁組

    養親となるものの直系卑属(子や孫)が合意すれば、次の条件を満たす場合に、成年および被後見人と養子縁組することができる。すなわち心身の障害により介助が必要であって養親となるものにより5年以上監護されている、あるいは養親となるものにより子どものときに5年以上監護教育されたことがある、あるいはその他の理由で養子となるものが5年以上養親となるものと家族同様に同居している場合である。養子になるものが結婚している場合は、配偶者の承諾が必要である。そのほかの事項については、子どもとの養子縁組の条件に準じる。

  • 審査

    トルコ国内に居住するトルコ市民は、居住する県の家族社会政策省地方支分部局、国外に居住するトルコ市民および外国市民は、当該国の養子縁組所轄機関に申請する。夫婦で養親になる場合は夫婦で申請する。申請に際しては、財産状況や社会保障、学歴の証明書のほか、心身の障害や伝染病や慢性的な病気がなく要介護の状態にないこと、アルコール・薬物中毒ではないことを示す健康診断書などの提出を求められる。また、子どもについての希望(性別、年齢など)も聴取される。

    養子縁組の申請は、受け付け順に審査される。ただし、要保護児童ではない子どもの養子縁組、あるいは子どもと親子同然に関係がすでに築かれている場合や血縁がある場合には、この限りではない。

    書類審査に通ると、担当者は自宅や職場の抜き打ち訪問を含め、申請者と5回以上面談し、申請者と同居者の性格、教育、文化的特質、経済力、健康状態、家族観の関係や周囲との関係、子どもへの期待、養子縁組についての考え、教育や養育についての考え、申請者に子どもがいる場合は子どもたちの態度や考えなどを見る。養親として適切と認められれば、養親候補として順番待ちの行列に加えられる。

    順番がくると、子どもと児童保護施設で引き合わされる。面会前に子どもの情報を閲覧することができる。養子の候補は原則としてひとりしか示されない。居住地の家族社会政策省地方支分部局と児童保護施設が、養親として適当と判断すれば、居住地の家族社会政策省地方支分部局と養親のあいだで「養子縁組のための一時的養育にかんする契約」(Evlat Edinme Geçici bakım Sözleşmesi)がかわされ、子どもは養親の家に引き取られる。

    ソーシャルワーカーは試験的養育期間中、養親の教育能力、家族関係、健康状態、子どもとの関係や社会的経済的条件の変化などを観察し、三ヶ月ごとに報告書を作成する。また養親の子どもへの態度や振る舞いを監視し、必要に応じて助言する。養親が適当でないと判断された場合は、試験的養育期間の終了を待たず契約は破棄され、子どもは施設に戻される。

    試験的養育期間中に養親が子どもとともに業務や休暇のために短期間県外に出るときは、居住地の家族社会政策省地方支分部局に事前に申請し許可を得る必要がある。国外に出る場合も同様である。

    一年間の試験的養育期間を経て、養親が適当と判断されると、養子縁組のための裁判が開かれる。家庭裁判所の審判により正式に養子縁組が成立する。

    国際的な養子縁組の申請は、ハーグ国際養子条約にもとづく基準に従って審査される。

  • 養親と養子の権利

    実親の権利と義務は、養親に移転する。養子は養親の相続人となる。子どもの養子は養親の姓を名乗る。養親が望めば子の名前を変更できる。成年の養子は希望すれば養親の姓を名乗ることができる。

  • 養子の人口登録

    夫婦が物心のつかない子を養子に迎えた場合、子の人口登録(nüfus kaydı)には両親の名として養親の名前が記載される。

    ただし養子縁組により実親との親子関係は終了しない。実親子関係を継続させ、相続権をはじめとする子の諸権利を守るために、実親の家族登録簿(aile kütüğü)と養親の家族登録簿は関連づけられ、養子縁組を認める裁判所の決定は双方の人口登録簿(nüfus kütüğü)に反映される。(人口登録簿は、家族登録簿と証書類登録簿(özel kütük)とそのコピーからなる。家族登録簿には出生、死亡、婚姻、養子縁組、認知、嫡出化、離婚などが記録される3。)

    養子縁組の登録、関連する文書や情報は秘匿され、裁判所が情報開示の決定を下した場合と養子が情報開示を希望する場合をのぞき、公開されない。

  • 養子縁組の解消

    養子と養親の親子関係は、裁判所の決定により解消される。合法的理由なしに必要な承諾をとらずに養子縁組した場合、あるいは子どもの利益への重大な侵害がある場合に、検察当局あるいは関係者は養子縁組の解消を請求することができる。裁判の請求は、これらの事由の発生を知ってから一年以内、養子縁組してから五年以内に行わなければならない。

  • 養子の情報請求

    18歳に達した養子は、自身の養子縁組について情報の開示を請求することができる。申請は本人が居住地の家族社会政策省地方支分部局にたいして行う。

  • 養子であることの告知

    家族社会政策省では、子が学校生活に入る前、4~6歳ごろに、養子であることを養親から子に告知するよう推奨している。子どもが事実を知れば、いつか実親を求め、自分たちを捨てるのではないかと怖れる養親にたいし、同省では、遅かれ早かれ子どもは養子であることを知るため、養親が事実を隠すことは養子の心理的ダメージをかえって大きくするとして、告知を勧める啓蒙活動を行っている。養親は希望すれば告知の方法などについて居住地の家族社会政策省地方支分部局のソーシャルワーカーから助言を受けられる。

3 養子縁組の実践状況

トルコでは、アメリカやフランスなど欧米の養子大国と比較するなら、養子縁組は盛んとはいえない。家族社会政策省の発表によれば、2013年現在、要保護児童のうち施設で保護されている児童は11,605人、里子として保護されているは児童3,351人(里親は2,276人)であり、2013年の一年間に成立した養子縁組は765組であった4。理由として、イスラムにおいて父系血統が重視され、血縁のない子との親子関係を形成する養子縁組が認められないことや、血縁のない子を自分の子とすることへの抵抗が指摘されることがある。

子どもができない夫婦は、宗教婚により二人目の妻を迎える5(Göknar 2015, 10)、あるいは親族の子を出産直後に密かに引き取り、自分の子として役所に届けることがある。他人の子を裁判所の決定なしに実子として登録することは、子の親子関係(soy bağı)の変更を禁じる刑法231条によって禁じられている。妊婦検診が普及し病院での出産が増え、妊娠と出産が国家の管理下におかれるようになると、後者の方法は困難になった。

かわって、体外受精をはじめとする生殖補助技術を用いる不妊治療が、子どもをもつための方法として普及しつつある。1980年代に導入されたこの医療技術は、2000年代に医療保険の対象になると、地方や低所得層のあいだでも利用者が増えた。不妊治療は成功率の高い治療ではない。だが、不妊治療をやめた理由を尋ねたある調査によれば、経済的理由などと並んで、養子縁組したと回答した夫婦はわずか2.4パーセントという報告もあるように(Khalili, 2012)、養子縁組は不妊治療で子を持てない場合の代替的方法とはなっていないようである。不妊治療を受ける夫婦は、そもそも血縁のある子を希望する人々であり、養子縁組を望む人々とは重ならないという見方もできるだろう。

子どもをめぐるこうした一般的状況が存在する一方で、養子縁組の現場では、養子を求める長い行列ができていることもまた事実である。

養子縁組できる子どもは、実親がいないか実親が養子縁組を承諾した子どもであり、施設で保護される子どもがすべて対象になるわけではない。そのため、養子を迎えたい人の数は、つねに養子縁組できる子どもの数を上回っており、長い順番待ちの行列ができている。

家族社会政策省では、子の年齢、性別、健康状態、養親がきょうだいを一緒に引き取ることができるか等を考慮して養子をあっせんしている。たとえば、きょうだいを一緒に引き取る養親は優先的に縁組させている。きょうだいを一緒に養子縁組できない場合も、できる限り居住地が近く、きょうだいと面会させようとする養親と養子縁組するよう配慮される。

養親のあいだでは身寄りのない0~1歳児の希望が多く、男児よりは女児の人気が高い。遺棄された子や身寄りのない子が好まれるのは、実親の身元がわかっている場合、いつか実親が現れて子どもを奪うのではないかと恐れるからである。

同省では、養親の待ち時間を短縮するために、性別や子どもの法的身分を選ばず、年齢の高い子やきょうだい子、他県の子を受け入れるよう勧めている。養子縁組の希望者は多いため、国際養子の対象になるのはトルコ国内で養子縁組が成立しにくい、慢性的な疾病や障害のある子、5歳以上の男児やきょうだいのいる子が中心である。

正規の方法で養子縁組するには長い時間がかかるため、インターネット上には養子斡旋サイト(e-evlatlık)も出現している。2016年、家族社会政策省は検察に、13のサイトについて人身売買が行われているとして閉鎖を要求し、その一部は逓信省の命令により閉鎖、残りは家族社会政策省が検察に訴えた段階で自主的に内容を削除した6

参考文献


  • Aile ve Sosyal Politika Bakanlığı n.d. Evlat Edinme : Mevzuat / İşleyiş, Sıklıkla Sorulan Sorular , Ankara: Aile ve Sosyal Politika Bakanlığı.
  • Özbay , Ferhunde 1999a Türkiye'de Evlatlık Kurumu: Köle mi, Evlat mı? (トルコにおけるエヴラットルック制度:奴隷か、子どもか?), Boğaziçi Üniversitesi Basımevi: Istanbul.
  • Özbay , Ferhunde 1999b Turkish Female Child Labor in Domestic Work: Past and Present, Boğaziçi Üniversitesi Basımevi: Istanbul.
  • Göknar, Merve Demircioğlu 2015 Achieving Procreation: Childlessness and IVF in Turkey, New York and Oxford: Berghahn.
  • Khalili, Mohammad Ali, et al. 2012 "Follow up of Infertile Patients after Failed ART Cycles: A Preliminary Report from Iran and Turkey," European Journal of Obstetrics and Gynecology and Reproductive Biology, 161(1) :38-41.
  • 村上薫2003「トルコの児童福祉——制度の展開と理念の変化」宇佐見耕一編『新興福祉国家論——アジアとラテンアメリカの比較研究』アジア経済研究所。

脚 注


  1. 以下の記述は、トルコ民法典(Türk Medeni Kanunu 2001年12月8日官報24607号)、家族社会政策省児童サービス局ホームページ(http://www.cocukhizmetleri.gov.tr/uygulamalar/evlat-edinme 2017年3月5日閲覧)、同省が作成したパンフレット(Aile ve Sosyal Politika Bakanlığı n.d.)、および内務省ホームページ(https://www.nvi.gov.tr/hizmetlerimiz/nufus-hizmetleri/diger/evlat-edinme 2017年3月5日閲覧)にもとづく。
  2. 条約の全文は、https://www.hcch.net/en/instruments/conventions/full-text/?cid=69 条約名の日本語訳は、http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000087021 (2017年3月5日閲覧)。トルコ語訳はLahey Ülkelerarası Evlat Edinme Sözleşmesiである。
  3. Nüfus Hizmetleri Kanununun Uygulamasına İlişkin Yönetmelik (人口業務法の適用にかんする省令)(2006年11月23日官報26355号)
  4. 家族社会政策省児童サービス局ホームページ(http://cocukhizmetleri.aile.gov.tr/istatistikler 2017年3月7日閲覧)。
  5. トルコの結婚には公式の法律婚と非公式の宗教婚がある。宗教婚のみのカップルから産まれた子は、父親が認知すれば、法律婚のカップルの子と同じ権利を与えられる。
  6. http://www.haberturk.com/gundem/haber/1186393-e-evlatlik-sitelerine-operasyon(2016年10月31日閲覧)