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コラム

おしえて!知りたい!途上国と社会

第4回 途上国の縫製工場に女性が多いのはなぜですか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050414

2018年6月

画像:質問

発展途上国の縫製工場では、圧倒的に男性よりも女性が多く働いている印象が

あります。なぜ女性ばかりなのですか?

まず、「なぜ豊かな国よりも貧しい国に縫製工場が多いのか」を考えてみましょう。縫製産業は他の産業と比べて、ミシンを動かすために多くの人手が必要です。衣類を製造・販売する会社からすると、価格を下げれば下げるほど衣類は売れるはずなので、できるだけ安く作りたいと思います。そのためにはどうしたらよいのでしょうか。原材料の布や糸を安く調達することも考えられますが、とりわけ人手が多く必要な縫製産業では、労働者を安い賃金で雇うことができれば衣類の価格をぐっと抑えることができます。このようなわけで、賃金が安い途上国に、縫製工場はより多くあるのです。ちなみに、これは縫製工場に限った話ではなく、機械よりも人手が比較的多く必要な産業に共通することです。

ここで、「途上国の縫製工場に女性が多いのはなぜか」という質問に戻りましょう。次のバングラデシュの写真のように、縫製工場で多くの女性がミシンを動かしている光景をテレビや雑誌などで目にしたことがあるかもしれません。

写真:バングラデシュの縫製工場

(2008年8月バングデシュで山形辰史撮影)

先ほど書いたとおり、衣類の製造・販売会社は、できるだけ安い賃金で労働者を雇いたいと思っています。日本のような先進国であってもそうですが、途上国では女性の賃金は男性よりも低く、しかもその差が圧倒的なことが多いです。そして途上国の多くの女性たちは、最低賃金かせいぜいそれより少し高いくらいで働くことを受け入れています。

これには様々な理由がありますが、安い賃金でも働いて少しでも家計の助けになりたいこと、他の働き口が男性ほど多くないこと、などが考えられます。安い賃金で働いてもよいと思う女性が多いために、衣類の製造・販売会社の意図(経済学では「労働需要」といいます)とマッチして、縫製工場では女性が圧倒的に多く働いているのです。

このような現象に対して、時々先進国の心ある消費者が、そういった会社は貧しい労働者を搾取(さくしゅ)しているとして、販売する衣類をボイコットする運動などを起こしています。途上国の労働者たちを思っての行動ではありますが、果たしてそれが本当に彼らの助けになるのかどうか、冷静に考えてみてほしいと思います。

例えば、バングラデシュの最低賃金は月に7,000円ほどで、先進国に住んでいる私たちからすると、労働者を搾取(さくしゅ)しているようにみえるかもしれません。でも、途上国の多くの人たちは、そもそも法律で定められた最低賃金を払ってくれるようなきちんとした工場で働くことができるわけではありません。月給は確かに安いけれど、周りにそれ以下の選択肢しかなければ、縫製工場で働き最低賃金が保障されることは恵まれている方なのかもしれません。また、万が一ボイコット運動で会社が倒産してしまうと、女性たちの新たな働き口はもっと労働条件の悪いところになってしまうかもしれません。彼女たちの生活をよりよくするためにはどうしたらよいのか、より深く考えてみることが重要ですね。

ところで、途上国の縫製産業でも、例外的に事情が異なる国もあります。例えば、下の写真からわかるように、バングラデシュと同じ南アジアの国であるパキスタンでは、縫製工場でミシンを動かしているのは圧倒的に男性です。これは、女性が外で働くことがよしとされていないためです。もっとも、バングラデシュでもかつては女性が外で働くことをよいと思わない人たちが多かったわけなので、時代が移っていけばパキスタンの縫製工場でも、圧倒的に多くの女性が働くようになるのかもしれません。

写真:パキスタンの縫製工場

(2011年12月パキスタンで牧野百恵撮影)

回答・地域研究センター 牧野百恵(まきのももえ)

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おしえて!知りたい!途上国と社会