IDEスクエア

コラム

おしえて!知りたい!途上国と社会

第3回 研究テーマは何ですか? なぜそれにしたんですか?(高校1年生)

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050410

2018年6月

画像:質問

研究っていろいろなテーマがあるみたいだけど、研究者はどういう過程を経て、

それに取り組むようになったんだろう?

質問ありがとう! 私は、グローバル化が発展途上国企業の成長にあたえる影響について研究してきました。もともと、発展途上国のことに関心を持ったのは、小学生のころ(1980年代)、エチオピアの飢饉やバングラデシュの貧困を報じるニュースを見たことがきっかけでした。また、中学校の図書室で、ジェトロ・アジア経済研究所のことが紹介されていた『学術研究者になるには』(ぺりかん社、1978年)を読み、研究に興味を持つようになりました。そのころ、国際政治の変化(冷戦の終結)や技術の変化(とくに情報通信技術[ICT]の発達)などをきっかけに、企業活動の地球規模化(グローバル化)が加速しました。そして、高校の修学旅行で、外国との経済取引を増やしながら急成長し始めた中国を訪れ、グローバル化と中国経済の関係に興味を持ちました。

グローバル化の影響に関してはこれまでにも、さまざまな観点の研究が積み重ねられてきました。企業が売上や利益を増やして成長するには、今までにない製品を開発したり、今までにないやり方で費用を抑えるための技術が必要になります。そのため、先進国の技術がグローバル化を通じて、どのようにして発展途上国へ伝わるのか?をめぐる研究はとくにたくさん行われました。技術は、発展途上国にある先進国企業で働いていた人が転職・起業したり、発展途上国企業の人と先進国企業の人が一緒に製品を作ったりすることで伝わります。

また、中国企業に関する研究では、家電・電子機器メーカーが自社で技術をたくわえるばかりでなく、先進技術を使うよその企業の製品・サービスも積極的に利用しながら急成長したことが、明らかにされてきました。例えば、よその企業に新しいケータイの設計図を引いてもらったり、ライバル企業の製品と似たものになってしまうけど、ケータイの頭脳にあたる中核部品(集積回路[IC])については非常に使いやすいものを選んだりして、技術的な課題をうまく解決していました。

写真:中国の工場 

しかし、発展途上国企業にとって、どの程度の技術を自社で導入・蓄積し、どの程度の技術不足分を他の方法で補えば、利益が最大化するのか?という、バランスの問題はまだ明らかにされていませんでした。

そこで私はこの問題に取り組むようになりました。多くの中国企業を訪問し、技術をめぐる考え方や課題をインタビューしました。また、数万社分の中国企業のデータを使って、グローバル化が企業成長にあたえる影響などをパソコンで計算しました。その他にも、皆さんが学んでいる数学(微分など)を使って、発展途上国企業の行動を抽象化した数理モデルを作ったりしました。そして、その研究成果を文末に掲げた本として、2014年に出版しました。

さて、皆さんはどんなことに関心があるでしょうか? 大学に通うとどの学問分野でも、まず、入門書で標準的な知識をたくわえることになります。そして、そこで紹介されている専門的な本や論文、先生に紹介してもらったものを消化しながら、そのテーマの研究の歴史を学びます。その過程で、未解明の問題が見つかると、ようやく自分の研究をスタートさせることができます。研究には長い時間と多くの試行錯誤が必要となりますが、興味が湧いたらぜひチャレンジしてみてください!

回答・開発研究センター 木村 公一朗(きむら こういちろう)

著者プロフィール

木村 公一朗(きむら こういちろう)。Kimura, Koichiro (2014) The Growth of Chinese Electronics Firms: Globalization and Organizations(『中国電子企業の成長:グローバル化と組織』), New York: Palgrave Macmillan.

書籍:The Growth of Chinese Electronics Firms

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国と社会