BOPビジネスのフロンティア -途上国市場の潜在的可能性と官民連携-

開催報告

開会挨拶 / 基調講演

2010年3月9日(火曜)
東京国際フォーラム
>>開催案内・プログラム

主催:経済産業省
共催:日本貿易振興機構(ジェトロ)
後援:世界銀行、株式会社朝日新聞社、社団法人日本経済団体連合会、
   社団法人日本貿易会、特定非営利活動法人国際協力NGOセンター

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開会挨拶

直嶋 正行 (経済産業大臣)

本日は、経済産業省主催の国際シンポジウム「BOPビジネスのフロンティア~途上国市場の潜在的可能性と官民連携~」に、多数お集まりいただき、厚く御礼申し上げます。開会にあたり、一言ごあいさつを申し上げます。

ここ数十年間、世界経済は成長を続けてきましたが、その一方で、成長の過程において不均衡も生じております。持続可能な世界の構築に向けて、数多くの課題があります。特に、発展途上国は貧困や衛生面の問題など多くの社会的な課題を抱えております。こうした課題の解決に向け、国際社会をあげて取り組むべきものが数多く存在をしています。

我が国においても、技術協力や資金協力など様々な手段を講じてきましたが、膨大な支援ニーズに対して、これまでのやり方には限界が存在していたことも事実でございます。

一方で、グローバル化が進展する中では、国境を越えて活動する企業は、世界的な課題の解決に対し、多くの役割を担うことができます。途上国との関係で言えば、低所得階層、いわゆる「BOP層」をビジネスの対象として見るという発想の転換により、新しいビジネスのフロンティアとすることができます。例えば、浄化装置を中に組み込んだストローにより、大規模な施設を使わず、安価かつ手軽に安全な水を飲めるようになった例があります。また日本の企業が製造している殺虫剤を練り込んだ蚊帳は、アフリカで深刻な問題となっているマラリアの予防に効果がある上、タンザニアでの現地生産により多くの雇用を生み出し、地域経済の発展にも貢献をしています。このように、BOP層が抱える社会的な課題の解決とビジネスを両立する取組が行われております。

こうした状況を踏まえると、官・民・国際機関、それぞれの知恵や技術、ネットワーク等を組み合わせて活用することで、新しい国際貢献のあり方を見いだすことが求められています。そして、BOP層の抱える制約を取り外してBOP層に新しい可能性を与えるとともに、その土地の慣行や状況を十分に踏まえた、オーダーメード型の「BOPビジネス」を推進していくことが期待されます。こうした取組によって、第一にBOP層や途上国の政府、第二に援助機関やNPO・NGOなど、第三に我が国の企業や政府など、様々な関係者にとって有益な、すなわち、Win-Win-Winなものとなる可能性があります。

経済産業省としても、「BOPビジネス」の普及・拡大に向け、官民の連携のあり方等について検討を行い、先月に報告書を取りまとめさせて頂きました。また、「BOP層」の市場調査など、具体的な取組を進めております。合わせて、経済産業省内において、「BOPビジネス」の推進体制を強化するよう動き始めています。本年夏を目途に、推進母体となる「BOPビジネス推進プラットフォーム」を立ち上げる予定であり、今後とも、官民が協力をして情報交流やプロジェクトの推進を行うことのできるよう、積極的に取り組んでまいりたいと思っております。このような成果を皆様に知ってもらうとともに、実際に官民の連携の可能性を考え、行動していただくことが本日のシンポジウムの趣旨でございます。是非積極的なご参加をお願い申し上げます。

最後に、本日の国際シンポジウムが皆様にとって実りあるものとなりますこと、今後の我が国におけるBOPビジネスの普及・拡大の後押しとなりますことを祈念申し上げまして、私のあいさつとさせて頂きます。

直嶋 正行 (経済産業大臣)

直嶋 正行 (経済産業大臣)

基調講演 “Invisible Global Market: Marketing to the Other 86%”

ヴィジャイ・マハジャン
(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール
ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

私のメッセージはふたつある。第一に、日本を含む先進国の人口は世界の14%程度にしかすぎないが、その一員である幸運な日本人に「世界の残りの86%」とのビジネスを提案したい。第二に、そのような86%には大きなビジネス・チャンスがあることを強調したい。第二次世界大戦以降に先進国になった国は少ない。日本が成し遂げた戦後の成長を再び実現できる国は、成長著しい中国、インド、そしていかなる小国であっても、私の生きている間においては出ないであろう。一人当たりGDPが1万ドルを超えるのは容易なことではないのである。しかし、それでも「世界の残りの86%」には大きなビジネスの可能性がある。

米国発の金融危機が世界中に不況をもたらしたように、世界経済を握っているのは世界のほんの一部である。先進国では、その消費者を対象にハイエンドの商品・サービスの開発がすすめられている。しかし、先進国の人口は減少しており、マーケティングの対象としては頭打ち状態である。これまでのマーケティング戦略は、持続可能でないのは明らかであろう。

マーケティングの世界では、すでにグローバルな規模での変化が起こっている。世界の14%のなかでのみビジネスが行われているわけではない。「世界の残りの86%」で14%を対象とした商品、サービスの提供もおこなわれている。例えば、インドのIT産業はその大部分が先進国向けである。さらに、「世界の残りの86%」が86%を対象とした商品、サービスの提供を行っている例もある。中国では、先進国向けよりも質の落ちる開発途上国向けのさまざまな商品の生産がおこなわれている。また、人の移動は加速的に進んでいる。先進国に暮らす外国出身者の少なくとも95%が、開発途上国出身者である。

すでに「世界の残りの86%」を対象としたビジネスでの欧米企業の成功例はある。成長著しいのは中国、インドだけではない。アフリカ大陸全体の一人当たりGDPは、インドのそれを上回る。開発途上国には若年層が多く、今後も市場は拡大するだろう。日本企業には、「世界の残りの86%」に対する積極的な参入を期待したい。

配布資料 (681KB)

ヴィジャイ・マハジャン(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

ヴィジャイ・マハジャン
(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール
ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

基調講演 “Doing Business with the Base of the Pyramid”

マリルー・ウイ(世界銀行アフリカ地域局 金融・民間部門開発部 局長)

本日は、BOPビジネスの可能性について、(1) BOPビジネスの潜在的な市場規模、(2) BOPビジネスの展望、特に消費者としてのビジネス展望と生産者としてビジネス展望、(3) 世界銀行の役割についてお話したい。

(1) BOPの市場規模

BOPとは購買力平価換算にして、1日8ドル以下(年間3000ドル以下)で生活している人たちを指す。IFC(国際金融公社)とWRI(世界資源研究所)の共同調査によれば、BOPに属する人々は世界で約40億に達すると見込まれており、市場としては5兆ドル規模が見込める。人数で言えば特にアジアにBOP層が集中しており、その分市場として大きな可能性を秘めているが、アフリカでは95%の人口がBOP層に属し、消費支出全体の71%がBOP層によるものである。そのため、対アフリカビジネスを展開する上ではこのセグメントを無視することはできない。BOP層は、(1)基礎的なサービスにアクセスできない、(2)インフォーマル部門で生計を立てており、市場経済から分断されている、リスクに対して脆弱であるなどの特徴を持っている。そして、(3)彼らが十分なサービスを受けるためには、富裕層よりも高い費用を支払わなくてはならない(これをBOP Penaltyと呼ぶ)。そのため、基礎的ニーズを満たす低価格製品・サービスへの需要が高いと考えられる。

(2) BOPビジネスの展望

消費者としてBOPを捉えた場合、食料品に対する需要が最も大きいと推定されるが、これからの傾向としては携帯電話を始めとするICT(情報通信技術)への需要も大きくなるだろう。また、金融サービスの提供も不可欠である。貯蓄や借入サービスの充足によって、BOP層の生産活動や消費の安定化に繋がるほか、保険サービスの充足によって、BOP層のリスク脆弱性を低めることが可能になる。現状では、こうしたサービスはBOP層に対してほとんど提供されておらず、アフリカでは特にそれが深刻である。生産者としてBOPを捉えた場合、BOP経済はインフォーマル経済と重なりが大きい。インフォーマル(事業登録がされていない)であるがゆえに、電力、水、銀行などに対するアクセスがフォーマル部門に比べ非常に限られたものとなっている。BOPに対して変革を起こすためには、地元の知識を活用しながらも、革新的な手法を模索していくことが必要である。そのためには、伝統的な公共投資や援助を補完しつつ、BOP層を市場経済から排除しない、民間によるより競争的・包括的・効率的な市場ベースの対応が求められる。持続性の観点からは、市場ベースのビジネスモデルにより民間の利益確保が見込まれないといけないが、1件あたりは薄利であろうから、対象規模を拡大することが重要な鍵となるだろう。

(3) 世界銀行の役割

世銀は民間・NGO部門と協力し、BOPに関する知識の共有、金融支援などを通じた民間部門の関心の触媒、ビジネスリスクの共有、BOP経験を共有するプラットフォームの構築など、ビジネス環境改善に資する改革を行う役割を担っている。これまで、世銀では民間事業主とパートナーを組み、安価で小規模な照明器具(アフリカ)、携帯マネーサービス(ケニア)、保険(インド)、小規模金融の制度設計(アフリカ)、零細・中小企業支援(東アフリカ)などの事業を展開し、これらに対して、民間の参入意識がさらに高まってきている。世銀は今後も第三機関(企業やNGOなど)に対し、小規模金融規模拡大の支援、革新的なサービス提供者に対する無償支援などを実施する。このような手段を通じ、民間部門のBOPに対する関心を高めていきながら、途上国の成長を促進していけるようにしたい。

配布資料(和文) (2.52MB) |  配布資料(英文) (2.52MB)

マリルー・ウイ(世界銀行アフリカ地域局 金融・民間部門開発部 局長)

マリルー・ウイ(世界銀行アフリカ地域局
金融・民間部門開発部 局長)

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