東アジアの地域統合とAPEC

2010年10月18日(月曜)
グランドプリンスホテル赤坂  五色2階 五色の間
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所
後援:経済産業省

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セッション2  「成長戦略:グリーンエコノミーとイノベーション」

モデレーター:
鍋嶋 郁 (ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター主任調査研究員)
パネリスト:
ゲリー・ハフバウアー(ピーターソン国際経済研究所(PIIE)上級研究員)
ローレンス・W・ベイツ(GEジャパン ゼネラル・カウンシル)
安希慶 (韓国生産技術研究院専門委員)
杣谷晴久(経済産業省通商政策局APEC室アジア太平洋通商交渉官)

セッション2:成長戦略:グリーンエコノミーとイノベーション

セッション2:
成長戦略:グリーンエコノミーとイノベーション

APEC2010では5つの成長戦略が推奨されております。その中で、「持続可能な成長」と「革新的な成長」は非常に整合性の高い成長戦略だと言えます。環境調和型経済、すなわち、グリーンエコノミーでは技術革新が活発に起こる事が期待されており、APECの成長戦略の一つである革新的成長とも密接な関係にあります。イノベーションと環境問題はもはや別々に議論するものではなく、同時に考慮していくべきものであります。本セッションでは、APECにおけるイノベーションと環境問題を中心に議論されました。

このセッションでは、主に3つの大きな議題について議論されました。1つ目は、どのような技術革新が省エネ・汚染対策・低炭素化にとって好ましく、また、その結果どの産業がより成長するのかを議論しました。2つ目は、どのように発展途上国が環境調和的な成長戦略で高成長を遂げることが出来るのかを議論して、最後に、地域内の環境調和的な産業発展、環境財・サービスの貿易促進、環境保全の促進に対してのAPECの役割について議論しました。

新産業・イノベーションの可能性

グリーンエコノミーは成長の起爆剤として各国政府とも力を入れている分野であり、このトピックに対する意見交換が行われました。日本政府は今年の6月に新成長戦略を策定して、7つの戦略分野のうちの一つはグリーンイノベーション(環境技術革新)による経済成長の達成を打ち出しております。具体的な3つの数値目標として、50兆円規模の市場開拓、140万人の雇用創出、13億トンのCO2削減を挙げ、成長戦略として日本の先端的な環境技術を生かすことを目標としています。他に具体的な戦略プロジェクトとして、再生可能エネルギーの更なる活用のための市場整備、地熱発電の普及、スマートグリッドの採用、環境関連のベンチャー企業の育成などを目標としています。また、近年、韓国もローカーボンエコノミー(低炭素型経済)を目標として掲げて、グリーン成長戦略を策定して、その成長戦略において産業のグリーン化、およびグリーン産業の育成を進めてきました。主な例としては、グリーンパートナーシップがあり、これは大企業が中小企業に対して環境技術の協力を行う事業であります。開始時期はEUにおいて環境規制が強くなった2003年に重なります。グリーンパートナーシップの契機としては、環境規制に対する中小企業の反発が強かった事を挙げられます。そのため、大企業に補助金を提供して、中小企業向けに環境における技術協力を進めることが考えられました。現在では、大企業1社当たり20社ほどの中小企業が支援されており、中小企業の環境に対する理解も少しずつ進展してきました。

こういった環境問題の取組みは担当する政府機関が異なることで調整が取られておらず、様々な規制や補助金が存在します。その結果、補助金が比較的多い分野である太陽光発電、風力発電、電気自動車にイノベーションが集中しているとの指摘がありました。また、米国や中国、インドなどでは石炭産業の影響力が非常に強いため、CO2を貯留する技術も注目を浴びています。また、バイオエネルギーの注目も高まってきています。一方、原子力エネルギーもCO2排出面から非常にクリーンで効率的なエネルギーですが、原子燃料の廃棄物や安全面で不安が残っており、あまり推進されておりません。そして、新エネルギー開発の重要性も指摘された上で、既存の発電システムの効率化、天然ガスの利用増加、水資源(水力発電も含む)利用の効率化などの地道な努力も低炭素社会を目指すには不可欠であるとの意見も出ました。

発展途上国にとってのグリーンエコノミー

発展途上国が環境調和型の成長戦略を選択するように、国連気候変動枠組条約における市場メカニズムを活用したクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)を応用することが考えられています。しかし、発展途上国では汚職という問題のためにCDMが期待通りに機能するのか疑問が残ると指摘されました。代替案として、一年間で排出される平均的な一人当たりCO2排出量を見ると、米国で19万㎥、日本で9万㎥、中国で5万㎥、そして、インドでは2万㎥です。こうした国別の相違がある中で、一人当たりの排出量の違いに沿って移転価格が決まる仕組みを考案すれば、発展途上国が低排出レベルの経済成長を志向するようになるという意見も出ました。

貿易を通じて発展途上国の企業は温暖化対策を余儀されなくなる可能性も指摘されました。例えば、韓国企業における環境問題を研究の中で、日本企業と材料の取引をしている企業の事例がありました。韓国の中小企業が、取引先の日本企業からカーボンフットプリント(製品の生産過程における温室効果ガスの排出)の提出を求められた事例です。こうした環境の取り組みは国際的に広がりつつあり、今後も途上国において同様な問題が増えると考えられます。

発展途上国においても持続的な成長のためには質の高い(環境に配慮)した成長が重要であるとの認識が高まっています。こうした中で、国際協力について議論するAPECにおいて先進国が途上国へ環境技術の協力を進めようと話し合われています。ただ、途上国は先進国企業の「技術移転」を進めることを強く主張していて、先進国は途上国の「ただ乗り」問題を憂慮しています。特に、途上国の知的財産権の未整備が先進国の憂慮を大きくしていると言えます。

APECに期待される役割

今後のAPECの役割について幾つかの意見が出された。まず、環境関連の財・サービスの貿易自由化をAPECで支持していくべきです。この中で、利害関係を持った企業の数が比較的少ないアルミニウムなどの産業から基準統一化を試みることができる、との指摘がありました。第2に、国別の低炭素社会計画を報告、監督、さらに評価するシステムを体系的に作ることにより、国家レベルの温暖化ガス削減目標の業績評価が可能となります。その結果、温暖化ガス削減の国際比較が容易になるため、こうした仕組みをAPEC内での国家間の相互監視に役立てるべきだという意見がありました。第3に環境基準の国際的な標準化を推進する必要あると、指摘がありました。APECでは貿易投資の促進を主に目標としており、それに関連して、省エネの商品基準(ラベルなど)を明確にして、省エネに関しても「ピア・レビュー」の仕組みを進めるべきです。第4に、中小企業を対象とした温室効果ガス削減の政策の重要性が述べられました。大企業は経費削減の観点からこれまで環境対策を進めているため、環境対策に遅れている中小企業を支援する方がより効果的だという意見がでました。

最後に、クリーンエネルギーの活用がさらに進むためには、環境負荷の高いエネルギー価格が現状より高くなるべきだという指摘がありました。

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