開催報告

国際シンポジウム

BOPビジネスのフロンティア——途上国市場の潜在的可能性と官民連携——

開催日時
2010年3月9日(火曜)

会場
東京国際フォーラム

主催
経済産業省

共催
日本貿易振興機構(ジェトロ)

後援
世界銀行、株式会社朝日新聞社、社団法人日本経済団体連合会、社団法人日本貿易会、特定非営利活動法人国際協力NGOセンター

内容

開会挨拶

基調講演“Invisible Global Market: Marketing to the Other 86%”
ヴィジャイ・マハジャン氏(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

基調講演“Doing Business with the Base of the Pyramid”
マリルー・ウイ氏(世界銀行アフリカ地域局 金融・民間部門開発部 局長)

BOPビジネス支援取組報告
  1. 「途上国における官民連携の新たなビジネスモデルの構築」(BOPビジネス政策研究会報告)
  2. ジェトロ海外調査結果報告(先行事例調査、潜在ニーズ調査)
パネルディスカッション「BOPビジネスの現状と可能性」

閉会挨拶

開会挨拶
直嶋正行氏(経済産業大臣)

直嶋正行氏(経済産業大臣)

直嶋正行氏(経済産業大臣)

本日は、経済産業省主催の国際シンポジウム「BOPビジネスのフロンティア~途上国市場の潜在的可能性と官民連携~」に、多数お集まりいただき、厚く御礼申し上げます。開会にあたり、一言ごあいさつを申し上げます。

ここ数十年間、世界経済は成長を続けてきましたが、その一方で、成長の過程において不均衡も生じております。持続可能な世界の構築に向けて、数多くの課題があります。特に、発展途上国は貧困や衛生面の問題など多くの社会的な課題を抱えております。こうした課題の解決に向け、国際社会をあげて取り組むべきものが数多く存在をしています。

我が国においても、技術協力や資金協力など様々な手段を講じてきましたが、膨大な支援ニーズに対して、これまでのやり方には限界が存在していたことも事実でございます。

一方で、グローバル化が進展する中では、国境を越えて活動する企業は、世界的な課題の解決に対し、多くの役割を担うことができます。途上国との関係で言えば、低所得階層、いわゆる「BOP層」をビジネスの対象として見るという発想の転換により、新しいビジネスのフロンティアとすることができます。例えば、浄化装置を中に組み込んだストローにより、大規模な施設を使わず、安価かつ手軽に安全な水を飲めるようになった例があります。また日本の企業が製造している殺虫剤を練り込んだ蚊帳は、アフリカで深刻な問題となっているマラリアの予防に効果がある上、タンザニアでの現地生産により多くの雇用を生み出し、地域経済の発展にも貢献をしています。このように、BOP層が抱える社会的な課題の解決とビジネスを両立する取組が行われております。

こうした状況を踏まえると、官・民・国際機関、それぞれの知恵や技術、ネットワーク等を組み合わせて活用することで、新しい国際貢献のあり方を見いだすことが求められています。そして、BOP層の抱える制約を取り外してBOP層に新しい可能性を与えるとともに、その土地の慣行や状況を十分に踏まえた、オーダーメード型の「BOPビジネス」を推進していくことが期待されます。こうした取組によって、第一にBOP層や途上国の政府、第二に援助機関やNPO・NGOなど、第三に我が国の企業や政府など、様々な関係者にとって有益な、すなわち、Win-Win-Winなものとなる可能性があります。

経済産業省としても、「BOPビジネス」の普及・拡大に向け、官民の連携のあり方等について検討を行い、先月に報告書を取りまとめさせて頂きました。また、「BOP層」の市場調査など、具体的な取組を進めております。合わせて、経済産業省内において、「BOPビジネス」の推進体制を強化するよう動き始めています。本年夏を目途に、推進母体となる「BOPビジネス推進プラットフォーム」を立ち上げる予定であり、今後とも、官民が協力をして情報交流やプロジェクトの推進を行うことのできるよう、積極的に取り組んでまいりたいと思っております。このような成果を皆様に知ってもらうとともに、実際に官民の連携の可能性を考え、行動していただくことが本日のシンポジウムの趣旨でございます。是非積極的なご参加をお願い申し上げます。

最後に、本日の国際シンポジウムが皆様にとって実りあるものとなりますこと、今後の我が国におけるBOPビジネスの普及・拡大の後押しとなりますことを祈念申し上げまして、私のあいさつとさせて頂きます。

基調講演“Invisible Global Market: Marketing to the Other 86%”
ヴィジャイ・マハジャン氏(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

ヴィジャイ・マハジャン氏(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

ヴィジャイ・マハジャン氏(テキサス大学オースチン校 マッコム・ビジネススクール ジョン・P・ハービン記念講座担当教授)

配布資料(681KB)

私のメッセージはふたつある。第一に、日本を含む先進国の人口は世界の14%程度にしかすぎないが、その一員である幸運な日本人に「世界の残りの86%」とのビジネスを提案したい。第二に、そのような86%には大きなビジネス・チャンスがあることを強調したい。第二次世界大戦以降に先進国になった国は少ない。日本が成し遂げた戦後の成長を再び実現できる国は、成長著しい中国、インド、そしていかなる小国であっても、私の生きている間においては出ないであろう。一人当たりGDPが1万ドルを超えるのは容易なことではないのである。しかし、それでも「世界の残りの86%」には大きなビジネスの可能性がある。

米国発の金融危機が世界中に不況をもたらしたように、世界経済を握っているのは世界のほんの一部である。先進国では、その消費者を対象にハイエンドの商品・サービスの開発がすすめられている。しかし、先進国の人口は減少しており、マーケティングの対象としては頭打ち状態である。これまでのマーケティング戦略は、持続可能でないのは明らかであろう。

マーケティングの世界では、すでにグローバルな規模での変化が起こっている。世界の14%のなかでのみビジネスが行われているわけではない。「世界の残りの86%」で14%を対象とした商品、サービスの提供もおこなわれている。例えば、インドのIT産業はその大部分が先進国向けである。さらに、「世界の残りの86%」が86%を対象とした商品、サービスの提供を行っている例もある。中国では、先進国向けよりも質の落ちる開発途上国向けのさまざまな商品の生産がおこなわれている。また、人の移動は加速的に進んでいる。先進国に暮らす外国出身者の少なくとも95%が、開発途上国出身者である。

すでに「世界の残りの86%」を対象としたビジネスでの欧米企業の成功例はある。成長著しいのは中国、インドだけではない。アフリカ大陸全体の一人当たりGDPは、インドのそれを上回る。開発途上国には若年層が多く、今後も市場は拡大するだろう。日本企業には、「世界の残りの86%」に対する積極的な参入を期待したい。

基調講演「東アジア経済統合に向けて」
マリルー・ウイ氏(世界銀行アフリカ地域局 金融・民間部門開発部 局長)

マリルー・ウイ氏(世界銀行アフリカ地域局 金融・民間部門開発部 局長)

マリルー・ウイ氏(世界銀行アフリカ地域局 金融・民間部門開発部 局長)

配布資料(和文)(2.25MB)

配布資料(英文)(2.25MB)

本日は、BOPビジネスの可能性について、(1) BOPビジネスの潜在的な市場規模、(2) BOPビジネスの展望、特に消費者としてのビジネス展望と生産者としてビジネス展望、(3) 世界銀行の役割についてお話したい。

  1. BOPの市場規模
    BOPとは購買力平価換算にして、1日8ドル以下(年間3000ドル以下)で生活している人たちを指す。IFC(国際金融公社)とWRI(世界資源研究所)の共同調査によれば、BOPに属する人々は世界で約40億に達すると見込まれており、市場としては5兆ドル規模が見込める。人数で言えば特にアジアにBOP層が集中しており、その分市場として大きな可能性を秘めているが、アフリカでは95%の人口がBOP層に属し、消費支出全体の71%がBOP層によるものである。そのため、対アフリカビジネスを展開する上ではこのセグメントを無視することはできない。BOP層は、(1)基礎的なサービスにアクセスできない、(2)インフォーマル部門で生計を立てており、市場経済から分断されている、リスクに対して脆弱であるなどの特徴を持っている。そして、(3)彼らが十分なサービスを受けるためには、富裕層よりも高い費用を支払わなくてはならない(これをBOP Penaltyと呼ぶ)。そのため、基礎的ニーズを満たす低価格製品・サービスへの需要が高いと考えられる。
  2. BOPビジネスの展望
    消費者としてBOPを捉えた場合、食料品に対する需要が最も大きいと推定されるが、これからの傾向としては携帯電話を始めとするICT(情報通信技術)への需要も大きくなるだろう。また、金融サービスの提供も不可欠である。貯蓄や借入サービスの充足によって、BOP層の生産活動や消費の安定化に繋がるほか、保険サービスの充足によって、BOP層のリスク脆弱性を低めることが可能になる。現状では、こうしたサービスはBOP層に対してほとんど提供されておらず、アフリカでは特にそれが深刻である。生産者としてBOPを捉えた場合、BOP経済はインフォーマル経済と重なりが大きい。インフォーマル(事業登録がされていない)であるがゆえに、電力、水、銀行などに対するアクセスがフォーマル部門に比べ非常に限られたものとなっている。BOPに対して変革を起こすためには、地元の知識を活用しながらも、革新的な手法を模索していくことが必要である。そのためには、伝統的な公共投資や援助を補完しつつ、BOP層を市場経済から排除しない、民間によるより競争的・包括的・効率的な市場ベースの対応が求められる。持続性の観点からは、市場ベースのビジネスモデルにより民間の利益確保が見込まれないといけないが、1件あたりは薄利であろうから、対象規模を拡大することが重要な鍵となるだろう。
  3. 世界銀行の役割
    世銀は民間・NGO部門と協力し、BOPに関する知識の共有、金融支援などを通じた民間部門の関心の触媒、ビジネスリスクの共有、BOP経験を共有するプラットフォームの構築など、ビジネス環境改善に資する改革を行う役割を担っている。これまで、世銀では民間事業主とパートナーを組み、安価で小規模な照明器具(アフリカ)、携帯マネーサービス(ケニア)、保険(インド)、小規模金融の制度設計(アフリカ)、零細・中小企業支援(東アフリカ)などの事業を展開し、これらに対して、民間の参入意識がさらに高まってきている。世銀は今後も第三機関(企業やNGOなど)に対し、小規模金融規模拡大の支援、革新的なサービス提供者に対する無償支援などを実施する。このような手段を通じ、民間部門のBOPに対する関心を高めていきながら、途上国の成長を促進していけるようにしたい。

BOPビジネス支援取組報告

(1)「途上国における官民連携の新たなビジネスモデルの構築」(BOPビジネス政策研究会報告)
小山智氏(経済産業省 貿易経済協力局 通商金融・経済協力課長)

小山智氏(経済産業省 貿易経済協力局 通商金融・経済協力課長)

小山智氏(経済産業省 貿易経済協力局 通商金融・経済協力課長)

配布資料(和文)(675KB)

配布資料(英文)(480KB)

BOPビジネス検討の背景には、途上国の成長・拡大の中で、ハイエンド製品・サービスを強みとしてきた日本の企業、産業の在り方の再検討という産業政策的側面と、途上国における貧困等様々な課題の持続的・効果的解決という経済協力政策的側面がある。経済産業省としては昨年来、学識経験者等によって構成される研究会を設置し、国内外の先進事例・市場状況調査、関係者からの聞き取り、モデル事業等を通じて明らかとなった課題と対応策を検討した。対応策として、各種情報の収集・分析、支援施策の活用・改善、関係者間の連携を進めるとともに、ワンストップ情報提供機能や相談助言機能等を担うBOPビジネス推進のためプラットフォームを設立予定としている。官民連携によるBOPビジネスの取組は、それぞれの主体にとってのフロンティアであり、それを超えるためのイノベーションが必要である。それを実現できるか否かが各関係者、さらには日本全体が将来発展できるかのキーワードである。実行するBOPビジネスへ今後の展開が期待される。

(2) ジェトロ海外調査結果報告 (先行事例調査、潜在ニーズ調査)

「グローバル企業にみるBOPビジネスモデル」
大木博巳氏(ジェトロ 海外調査部 主任調査研究員)

大木博巳氏(ジェトロ 海外調査部 主任調査研究員)

大木博巳氏(ジェトロ 海外調査部 主任調査研究員)

配布資料(1.6MB)

本報告では、特に欧米企業の取り組みについてBOP市場開拓の事例が紹介された。バングラデシュのBATAの靴販売による女性の雇用拡大は、CAREという国際NGOとの連携で行われた。シーメンスの浄水器設置は、緊急支援をきっかけにレット・バトラー氏の熱意が実ったものだった。ベスタゴーの蚊帳は国際機関およびNGOと連携して普及販売に取り組んでいるが、「人道目的の事業であっても、目的のためには利益が必要だ」との信念で事業継続が図られている。クアルコムのワイヤレスリーチはCSRと唱っているが、将来の市場拡大を見込んで22カ国37プロジェクトを実施しビジネスの芽を探している。ボーダフォンのモバイルマネーサービスM-PESAは、イギリスのDFIDのチャレンジファンドの支援を受けて拡大した。公的機関がリスクを半減させ、マイクロファイナンス事業を始めたが、ケニア、タンザニアで携帯電話による送金業務の方がビジネスになることを発見し、業務変更した事例である。BOP市場開拓は日々進化しており、バングラデシュの巨大NGO・BRACは今日ソーシャルビジネスの多国籍企業ともいえる存在となっている。オランダでは中小企業のBOP市場開拓に、民間セクター投資プログラムが活用されている。BOP市場はイノベーションの源泉であり、日本企業の国際競争力向上への一歩になるであろう。


「BOPビジネス潜在ニーズ調査~BOP層の生活実態にみる潜在ニーズとそこから導き出される商品」
佐藤寛(ジェトロ 貿易開発部 上席主任調査研究員)

佐藤寛(ジェトロ 貿易開発部 上席主任調査研究員)

佐藤寛(ジェトロ 貿易開発部 上席主任調査研究員)

配布資料(和文)(2.5MB)

配布資料(英文)(2.5MB)

BOPビジネスとは、年間所得が3000ドル以下(購買力平価ベース)の低所得者層をターゲットとして、彼らが欲する製品・サービスを購入可能な価格帯で提供するビジネスである。ある商品がより安く、より容易に入手できるようになれば生活は安定し、よりよい品質・長持ちする商品が入手できるようなることは、消費による貧困削減と考えられる。実際にどのようなBOPペナルティがあり、そこにはどのような潜在ニーズがあるのか、インドネシア(栄養・衛生分野)、バングラデシュ(保健・医療分野)、インド(教育・職業訓練分野)で、潜在ニーズ調査を行った。インドネシアでは貧困層でも水を買っており、トイレは普及している。排泄後の手洗い習慣が未浸透である。マラリアよりもネズミ被害が甚大である。ゴミ処理分野には改善余地が大きいことなどが生活実態調査より浮かび上がった。バングラデシュでは、飲料水の改善要求が高く水を浄化するニーズが高いこと、おなかが張る(Gastic)が日常的な疾病であることなどがわかった。インドでは中学履修が仕事に就くためのスキルとして必要と考えられているが、よりよい転職のためには職業訓練のニーズも高い。35%が通学に必要な服に問題を感じている。文房具は支給されることになっているが、質量ともに問題が多いことなどが浮かび上がった。そこから、インドネシアでは手押し水揚げポンプ、水消毒薬、トイレ設置用容器入り液体石けん、洗濯機、包括的ネズミ駆除サービスなどの商品への需要が導かれた。バングラデシュでは、家庭常備用整腸剤、乳酸菌飲料、栄養添付ふりかけ、ハエ取り紙など防虫用品などの需要がある。インドの調査からは文房具、制服、学校用机椅子、学校用トイレ、ITサービス用パソコン、通信インフラなどの需要が導かれた。BOP向け商品の6つの開発要件として、低廉性、頑強性、アクセス改善、操作容易性、文化配慮、環境配慮が上げられる。

パネルディスカッション「BOPビジネスの現状と可能性」

(文中では敬称省略)
パネリスト
讃井暢子(社団法人日本経済団体連合会 常務理事)
槌屋詩野(株式会社日本総合研究所ヨーロッパ研究員)
富野岳士(特定非営利活動法人国際協力NGOセンター事務局次長)
小山智(経済産業省貿易経済協力局通商金融・経済協力課長)

モデレーター
佐藤寛(ジェトロ貿易開発部上席主任調査研究員)

佐藤:議論を始めるにあたり、(1) 現在のBOPブーム、経済産業省の取組をどう考えるか、(2) BOPビジネスモデルの先行事例調査結果から日本企業は何を学べるか、(3) 潜在ニーズ調査結果から何を学べるか、について各自の意見を伺いたい。

現在のBOPブームをどうみているか、また、METIの取組をどう考えるか

讃井暢子(社団法人日本経済団体連合会 常務理事)

讃井暢子(社団法人日本経済団体連合会 常務理事)

讃井:日本企業のBOPビジネスに対する関心は高いが、大方の企業はどのように実施したらよいのかわからない状況である。METIの取組については、色々な角度から企業が知りたい情報を整理しており、ありがたいことだと思う。また、プラットフォームを作りアクションにつなげていこうという動きも、非常に重要なことだと思う。ビジネスの本質的なコンセプトはBOPビジネスについても変わらないと考えられるが、既存のターゲットとは特徴が異なるので、マインドセットの変革が必要となる。企業の原点は「社会に有用な製品やサービスを提供し、顧客の満足を得る」という点にあり、消費者ニーズを満たしつつ、社会的な問題解決を図ろうとする意識は高い。マハジャン先生が基調講演で、「BOPビジネスに取り組むには、日本が辿った発展の道筋を振り返るべき」とおっしゃったのはよい提案である。「企業は社会の公器」という日本企業のDNAを活かして、社会のニーズを踏まえながら、今後はBOPビジネスにトライすることが重要ではないか。

富野:国際協力NGOセンター(JANIC)とは、日本のNGOをネットワークする組織である。NGOにとって、BOPビジネスが盛り上がったこの1年は「混乱の1年」であった。BOPビジネスに関して、NGOは二つの意見に分かれている。「ビジネスと共存」したいと考えるNGOも増えているが、「企業による搾取はけしからん」とビジネスを批判的に捉えるNGOもある。BOPビジネスにおけるNGOへの期待は高いが、多くのNGOは、BOPビジネスのことを理解しようとしている段階である。METIの取組については、特にNGOの視点で拝見したが、パートナーとしてのNGOへの期待が非常に強いと率直に感じている。但し、企業との連携におけるNGOの役割については、現地でのプロジェクトパートナーという位置付けだけでなく、主体的な担い手としてNGO自らも考えなければならない。たとえば「BOPペナルティーは解消されているか」といった視点から、監視する役割がNGOには求められているのではないか。

槌屋:BOPブームの風潮は、日本と海外で異なる。海外では、「チャンスになるだろう」という長期的な明るい展望として語られるのに対し、日本では途上国ビジネスに対して焦燥感を持って語られているように感じられる。BOPビジネスは、途上国との関わりにおいて日本人のマインドを変えるチャンスとなるのではないか。BOPビジネスの70%は失敗に終わっているというが、成功事例の裏には積み重ねてきた努力がある。新興国や途上国の急激な成長に対して日本は脅威でもって見ているが、共に価値を創造する形へ発想を変えないとBOPビジネスに取り組むことは難しい。日本市場がこれから縮小する中で、日本の誇りを回復したいとよく聞くが、新しい視点で、新しい形の誇りを回復する必要がある。途上国が成長とともに誇りを高めていくその過程に参画させてもらうことで、日本企業も新たな誇りを回復することができるのではないか。

佐藤:「誇りの回復」というよりもBOPビジネスを通じて、「新しいタイプの誇りを作っていけるかどうか」が試されているといえるかもしれない。

小山:本日多くの方にお集まりいただいており、また、マスコミに集中的に取り上げていただいているという状況は今までになく、BOPビジネスへの関心が高くなっているのは事実。BOPビジネスはブームではなく、長期的、不可逆的なものと考える。理由は3点。まず、世界経済全体の潮流である。先進国において人口は減少し、市場は相対的に縮小する一方、途上国においては人口が増大するとともに、一人当たりのGDPが拡大の傾向が続いていること。2点目として、BOPビジネスが実需に基づくものであること。一昨年の金融危機で先進国経済は停滞、縮小したが、これは必ずしも実需に基づかないビジネスの影響があったものと考えられるが、現時点でのBOPビジネスは、食料、医療、教育等のベーシックヒューマンニーズ分野や通信等まさに実需そのものに基づいたものであること。3点目として、情報通信技術の進展、利用の拡大の影響がある。アフリカの携帯電話台数は2007年には米国を超えており、情報の共有化により、より広い商品、サービスの要求が高まり、それに答えようとするビジネスも拡大している。特に、従来交通インフラが不十分であったため、コミュニケーションに関する問題の解決に大きく貢献している。

現在のBOPブームをどうみているか、また、METIの取組をどう考えるか

槌屋詩野(株式会社日本総合研究所ヨーロッパ 研究員)

槌屋詩野(株式会社日本総合研究所ヨーロッパ 研究員)

佐藤:BOPビジネスは単なるブームではなく、日本企業にとって必然の流れとして向き合うべきではないかということだと思うが、これまでの欧米企業のBOPビジネス例から、日本企業が学ぶべきことは何か。

讃井:成功事例の特徴の中で重要なポイントは3点ある。(1) 収益確保による持続性、(2) NGOや国際機関などとの連携、(3) トップのリーダーシップや長期戦略。(1) は企業の視点から考えれば重要で、(2) の連携はこれまで日本企業がなかなか取り組んでこなかった分野であるため、互いに意識改革をする必要がある。(1) のとおり収益性が重要ながら、BOPビジネスの収益性は一般に大きくない。そのため、BOPビジネスを長期にわたって継続するためには、長期的なビジョンを持って企業が得られる利益や影響を分析し、株主や社員に対して十分な説明を行うことが大切である。加えて、BOPビジネスを担う人材育成を社内で進め、業務の成果を測る尺度を作る必要がある。

富野:企業には、ミレニアム開発目標やグローバルコンパクトなど世界共通の目標を企業戦略にも掲げ、その達成のためのアプローチしとしてBOPビジネスに取り組んでもらいたい。目標を共有することにより、NGOや国際機関との連携が容易になる。企業とNGOとの連携においては、日本では「パートナー」としての認識が欧米と比較してまだ薄い。双方が実際に会って話をしたことがない場合も多いので、BOPビジネスのパートナーとして連携する前に乗り越えるべき壁がある。

槌屋:理念はビジネスモデルが作るものではなく、人が作るものである。理念を作りだしてきたのは、企業内のアントレプレナーシップを持った人材(イントラプレナー)の存在だ。成功事例は企業内アントレプレナーの人脈や試行錯誤の賜物だ。外部との連携の壁や言語の違いなど、欧米企業も苦労している。BOPビジネスは自社では完結できないため、企業と現地をつなぐ人材育成の必要性が議論されている。また、「NGOを使う」と表現する企業があるが、「NGOと一緒にどんな価値を作れるか」というスタンスで考えてほしい。

小山:今年度経済産業省が実施した調査は、欧米の企業や支援機関・国際機関がBOPビジネスにおいてどのような役割を果たしたかを調査することが目標である。先行事例からプロセスを学ぶことで、日本企業がBOPビジネスを実施する際の参考となる。今後は、M&Aや人材確保などの面においても、成功例・失敗例を調査するべきと考えている。企業からは、BOPビジネスを始めるにあたって社内の調整が難しいとの声も聞いている。是非トップの方はイントラプレナーへの理解を示すとともに、小さな単位で開始して、いくつかの成功・失敗を経験しつつ、将来のビジネスに繋げて欲しい。

潜在ニーズ調査結果から何を学べるか

富野岳士(特定非営利活動法人国際協力NGOセンター 事務局次長)

富野岳士(特定非営利活動法人国際協力NGOセンター 事務局次長)

佐藤:ジェトロが実施した潜在ニーズ調査結果から何が得られるか。

小山:今年度実施した調査では、ニーズが期待できるすべての分野をカバーできているわけではないので、特に日本企業が強みをもつ分野や電力、情報通信、交通などインフラ分野についても調査を進めていただきたい。また、ジェトロには調査結果をわかりやすい形で提供するように努めてもらいたい。企業は、その情報をきっかけにBOPビジネスを具体化してもらいたい。

佐藤:今回の調査は、調査設計、手法ともに試行的なものであり、今後よりよい調査にしていきたい。アフリカ4カ国でも同様の潜在ニーズ調査を実施しており、近日中に報告できる予定。

槌屋:BOP層の生活状況に関する有益な情報がまとまって提供されたという意味において、有意義な調査である。今後は、現地にいるジェトロの駐在員や商工会議所などのネットワークを通じて、必要な情報が常に提供される仕組みを作ることができれば、BOP市場に対する知識が日本の中でももっと増えるだろう。BOP層のニーズに対する情報不足が「利益につながらない」などの思い込みを作り上げている。定期的に調査を続けて、ニーズを聞き続けることが重要だ。今後もジェトロから発信してもらいたい。

富野:BOPビジネスを始めるにあたり、ベースとなる部分は今回の調査が参考になると思う。現地情報の収集については情報量の多いNGOと一緒に活動するのも一案であるが、必ずしもNGOと組むことが必要であるとは思わない。現地の情報を正確に把握し、実感を持つことが重要なので、企業には土着化するぐらい本腰を入れて取り組んでもらいたい。

讃井:特定の市場の実態について熟知していないとビジネスができない。ニーズを明らかにするという意味において調査は有益であるが、少ない母数から判断するには限界があり、BOP層ニーズのボリュームや集中・分散の別など、もう少し詳細な情報がほしい。また、国別に調査のテーマが分かれているが、様々なテーマの中でのプライオリティ付けをした情報があるとよい。恒常的に情報が入るシステムが必要であるため、JICAの海外青年協力隊などの草の根の情報を集めるのも一案。

佐藤:今回の調査は、日本のコンサル企業から現地のコンサル企業に調査委託した。コンサルにはビジネス系と開発系があり、調査方法に差異があった。将来的に調査方法を進化させたい。

BOPビジネスのアクションに向けて

小山智(経済産業省 貿易経済協力局通商金融・経済協力課長)

小山智(経済産業省 貿易経済協力局通商金融・経済協力課長)

佐藤:BOPビジネスにおいて収益性と社会性のバランスをどう考えるか。

讃井:日本企業も社会性の観点からCSRに熱心に取り組んでいる。BOPをすぐにビジネスとして成り立たせることは難しいため、まずは収益を見込まないCSRとして始めてノウハウを蓄積した上で、BOPビジネスに移行する「CSR発展型のBOPビジネス」という可能性もあるのではないか。

槌屋:現在のBOP層の状況は、多くのアントレプレナーを生みだしており、1920年代頃の日本と似ている。渋沢栄一などは「公を担う事業は収益になる」という発想を持っており、起業によって日本の繁栄を支えたが、今のBOP層の中からもそうした公を考えるアントレプレナーが生まれている。日本企業は、いつのころからか自社の利益を追求するようになったが、これは投資家を重視するようになって、事業の性質が変わってきたからだ。BRACやグラミン銀行など有名なBOP市場に深く入っている組織は顧客を重視する。収益性と社会性について議論するとパラレルになりがちだが、投資家と顧客のどちらを向いたビジネスをするかが問題を解決する糸口になるかもしれない。

佐藤:利益をビルトインした公共性はそう簡単ではない。グラミンバンクのような収益を最低限しか認めないソーシャルビジネスをどのように捉えるか。

富野:NGOの間でも、ビジネスの考えをもった動きは今後広まっていくと考えられる。その一方で、途上国のすべての問題がソーシャルビジネスやBOPビジネスで解決できるわけではない。たとえば、同じBOP層でも所得に応じてビジネスや援助などアプローチを変えるなど、さまざまな手法があってよいのではないか。

小山:問題に対してどのようにアプローチするかは、企業の戦略と判断に委ねられている。多くのパターンがあってもよい。まずは、BOPビジネスにチャレンジするというマインドが必要。

マハジャン:BOPビジネスでは、開始当時は社会問題の解決を意図した取り組みがビジネスにつながる例もある。何を実現したいか見極めることが重要で、たとえば、社会問題の中でも歯磨きの習慣化を目的とすれば、それがビジネスのタネになる可能性をも秘めている。

ウイ:価値判断の基準が重要になる。たとえば、バングラデシュでは各種支援機関がさまざまなサービスを提供しているため、ビジネスの初期にはそうした機関の補助金を活用する方法も考えられるが、いずれ利益が生まれた時に他機関との関係を考え直す場合など、あらかじめ判断基準が必要である。

佐藤:企業とNGOで用いられる言語の相違といった事例が紹介されたが、いかにパートナーシップを構築するか。

富野:パートナーとはいえ、最終的には人と人との接点が大きく作用する。まずは出会い、会話することを経て、互いの接点を探すことと理解することが重要。

槌屋:人と人とのつながりの重要性については同感である。欧米の先行事例においても、人と人とのつながりがビジネスの原点となっている例が多い。ただ、日本では人材交流が少ないことが大きな問題で、NGOの中で企業論理を正しく理解できる人材はまだ少なく、企業から照会があった際、対応に困るNGOの方が多い。企業側もNGOの事情を知らないので見当違いな要求をすることが多く、知識が足りていない。企業側とNGO側が最終イメージを共有し、ケーススタディを共に学び、一緒にアイデアを出しあえるような関係の構築が必要だ。そのためには双方が理解に努め、対話を続ける中で目的が重なる部分を見出すことが重要。企業の目的とNGOの目的が最終的に異なるのは仕方がないが、重なりは必ずある。それを見つけるには、互いに尊敬の念が不可欠である。こうしたコミュニケーションのやり方がオープンソースとなって誰もが使えるツールが生まれればと思う。

讃井:企業とNGOの最終目標は違うかもしれないが、共同で取り組める部分も多い。BOPビジネスにはまだまだ課題が多いので、企業・NGO・国際機関・地場企業の間の連携のほか、官民の連携が重要である。官には、情報収集・海外投融資などのファイナンスに加え、安価な商品を短期間に多量に提供するための普及啓蒙活動支援も求めたい。海外ビジネスのリスク低減のためには投資協定・知財保護協定といった政府間合意も有効である。

小山:政府としては、EPA、FTA、各種協定等の締結を進めているが、経済協力の面では「官民連携」がキーワードとなっている。途上国において今後はハードのインフラとソフトのインフラの一層の整備が重要である。アジアでは年間80兆円の需要があるが、資金は十分ではない。政府としてはインフラ整備における官民連携のための政策対話を進めており、また、新たな金融メカニズムとしてインフラファンドへの年金活用や、公的金融支援としてJICAの投融資の再開、JBIC、日本貿易保険事業の改善、活用等を検討している。このようなインフラ整備が広域的、政策主導的な官民連携である一方、より現地密着型のBOPビジネス支援における官民連携が相互補完的な役割を果たせることを期待している。BOP支援の場については、フォーマルな形とインフォーマルな形があるが、たとえばフォーマルな場として、BOP関係者のプラットフォーム作りを進めていきたい。その際、国内サイドの連携のみならず、海外における連携、すなわち現地大使館・JICA・ジェトロ・NEXI・30万人のOBのいるAOTS、青年海外協力隊などとの連携も重要である。経済産業省としては、BOPビジネスを現地密着型の官民連携事業として、大きな戦略、枠組みの中で位置付けて支援していくことが重要と考えている。

佐藤:人材育成については、青年海外協力隊の活用といった提案があったが、現地に2年間住んで言語を習得している点は強み。また日本への留学生を活用する方法もあるのではないか。

おわりに

佐藤寛(ジェトロ 貿易開発部 上席主任調査研究員)

佐藤寛(ジェトロ 貿易開発部 上席主任調査研究員)

佐藤:最後に一言メッセージをお願いしたい。

槌屋:私たちの子どもたちが成長した時の世界は、上海・デリー・カイロといった都市が中心になっている可能性もある。そのような世界を想像しながら、次の時代とどう対峙するかを考えることが重要だ。相手を変えるためには自分から変わる必要があるように、世界を持続可能な方向へ変えていくには、まず日本企業自身が変わらなくてはならない。

富野:BOPビジネスは、企業が持つ技術やマーケティング力を活用することによって途上国に貢献するという意味で、可能性を感じる。その一方、すべての問題を解決するわけではないと認識する必要がある。NGOは企業にはない視点を持っているので、真の意味でパートナーシップが組めると考えられる。

讃井:本日紹介のあった事例は多国籍企業が中心だが、優れた技術を持つ中小企業の可能性にもっと着目してもよいのではないか。BOPビジネスにおいては、「イノベーション」と「アントレプレナーシップ」がキーワードである。これらは、社会的課題の解決に有効であるだけでなく、将来的な企業成長の源泉でもある。

小山:BOPビジネスは、それぞれの主体にとってのフロンティアであり、それを超えるイノベーションが必要である。それを実現できるか否かが各主体、さらには日本全体が将来発展できるかのキーワードと考える。ハイエンドの製品・サービスを捨てる必要は全くないが、それだけで良いのかどうか。マハジャン教授の指摘のとおり、世界の86%の人口に目をつぶらず、果敢にチャレンジすることが必要ではないか。今まで付き合いのない市場、ビジネスであり、リスクもあるので、ジェトロやJICAといった機関を活用しながら、アクションにつなげてもらいたい。経済産業省としても支援を考えていきたい。

佐藤:「BOPブーム」と呼ばれるBOPビジネスへの入り口はすでに過ぎた。官民、市民セクターなどさまざま立場からアクションを起こす段階にある。成果は必ずしもwin-win-win(関係者すべての利益)とはならない可能性もあるが、そのプロセスを関係者で共有していくことが必要であると考える。

閉会挨拶

中富道隆氏(ジェトロ副理事長)

中富道隆氏(ジェトロ副理事長)

本日は御多忙のところ、国際シンポジウム「BOPビジネスのフロンティア」に御参加いただき有り難うございました。共催機関を代表して一言、御挨拶を申し上げます。

本シンポジウムは経済産業省から受託致しました「社会課題解決型官民連携プログラム支援事業」の一環であり、主要都市で開催しております国内セミナーとともに、BOPビジネスを含む「社会課題解決型ビジネス」の普及・啓発をめざして企画されました。

第1セッションにおけるお二人の基調講演者、ヴィジャイ・マハジャン教授とマリルー・ウィ局長によるお話は、刺激的であり、包括的であり、極めて示唆に富むものでした。御礼申し上げます。

第2セッション前半のBOPビジネス支援取組報告では、経済産業省からのBOPビジネス政策研究会の報告に加えて、ジェトロの海外調査の結果として「グローバル企業にみるBOPビジネス・モデル」と「BOPビジネス潜在ニーズ調査」についてご報告させていただきました。さきほど佐藤からお話し申し上げましたように、ジェトロではこれらを引き継いで、調査対象をアフリカに拡げ、また将来その具体的な結果をご報告させていただきたいと考えています。

パネル・ディスカッションでは各界の識者の方に参加いただき、大変有意義な議論が聞けました。BOPビジネスに取り組む基本的な対応の姿勢、これを脅威と見るべきではなく、チャンスと見るべきであるというような話、収益性と社会性、BOPに対するトップの認識の問題、MDGとのリンクをどう見るか、NGOとの関係、パートナーシップの構築、人材育成と確保、BOP市場における情報入手の必要性、政策手段の拡充の問題、それから、プラットフォームへの期待、これらの点について、識者の大変有益な視点の提供が行われ、相互に理解が深まったものと思います。今日の議論が有益に行われましたのは、何よりも御参加いただいたパネリストの皆様の御知見と御経験によるところが多く、大変お忙しい日程を調整して御参加いただいたことに対し、改めて御礼を申し上げる次第です。

最後になりましたが、スピーカーの皆様、本シンポジウムに御参加いただいたすべての皆様に心より御礼を申し上げます。ジェトロでは、来年度以降もこの事業を継承して、BOPビジネスの発展に寄与していきたいと考えておりますので、本シンポジウムを契機として御提案、御助言をいただくようお願い申し上げます。本日のシンポジウムが、今後の日本企業のBOPビジネスの展開に資することを祈念しまして、挨拶とさせていただきます。

本日はありがとうございました。


谷口和繁氏(世界銀行駐日特別代表)

谷口和繁氏(世界銀行駐日特別代表)

本日は長時間お疲れ様でした。

BOPビジネス、或いは世界の開発ということを考えた場合に、可哀想な人がいる、なんとかしてあげなければいけないという人情はひとつありますが、やはりチャリティという形では長続きしないし、持続的な発展が望めないと考えます。そういう意味では、ビジネス的な感覚、どうすればsustainableに成長が進むかということを常に考えていかなければ、ちゃんとした答えが出てこないと思います。

そういう中で、アフリカは、日本ではどうしても貧困の象徴、飢餓、内紛、といったイメージが強くあります。しかし、実際のアフリカは、リーマンショックで少し減速しましたが、過去10年間、資源を持っていない国でも平均5%以上の成長を達成している国が多いです。ということは、まだまだレベルは低いですが、例えば20年前の中国といったような比較も出来るかもしれません。20年というものさしで、さきほど槌屋さんが、ここにいる若い方が大人になった時にどういう世界になっているかという話をされましたが、例えば、残念ながら日本はこの20年間全然成長していません。成長しているのは借金だけで、借金は一国のGDP分だけ丸々100%増えていますが、本物のGDPは成長していません。この間、中国は(中国のGDPをどう計るかということはありますが)GDPが約10倍になっています。ということは、アフリカがもし20年前の中国だとすると、これから20年間でアフリカも10倍になる可能性があるということです。

日本はうかうかしていると、この次の20年に落っこちているかもしれません。何もしなければ、借金だけ増えて、GDPは落ちているということさえ考えられます。そういう意味では、今、日本企業、日本にいる人達が将来を考え、何かしなければいけないと考えるのであれば、内にこもっている場合ではないと思います。世界銀行も元気な日本の方と手を携えて世界の開発に向かう、それこそが日本自身の繁栄を約束する一番の道ではないかと考えています。開発はチャリティではなく、投資であると考えていますので、皆様とのパートナーシップを期待しております。

本日はありがとうございました。